着物の基礎知識

日本人の「着物離れ」とは。着物市場の現在と、着物離れの原因や対策

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着物離れ 着物の基礎知識

「着物を着るのは何となく気が引ける」、「着てみたいけど敷居が高そう」、と考えたことはありませんか。

かつては普段着だったはずの着物ですが、最近では成人式や結婚式などの行事以外で見かける機会は少なくなってしまいました。

そんな「着物離れ」が進む一方で、普段着として着物を着ることを素敵だ、自分も着てみたいと考えている人が多いのもまた事実です。

今回はそんな日本人の「着物離れ」について原因や現状を解説していきます。

「着物離れ」による着物市場の現在

着物紋

最近ではテレビ離れ、車離れなど、何かと若者の「○○離れ」という言葉を耳にしますが、着物もご多分に漏れず「着物離れ」と呼ばれる現象が続いています。

現代人は本当に着物を着なくなったのか、まずは着物業界の現状を見ていきましょう。

普段着からフォーマルに。高級化路線で着物の市場規模は年々縮小

着物の市場規模は、1980年前後から2019年にかけて約85%減と減少の一途をたどっています。

最大の要因は、かつて普段着だった着物が、現在ではフォーマルな装いになってしまったことでしょう。

明治以降、着物より安価で着用しやすい衣服として日本に洋服の文化が浸透していきました。だんだんと普段着としての需要が少なくなった着物は、洋服との差別化を図るため、高価格なフォーマル商品の路線にシフトしたのです。

しかしそれも石油ショック以降、所得が伸び悩んだ結果、需要はさらに減少。

現在ではフォーマルな場でも洋服を選ぶ人や、着用機会の少なさから、購入ではなくレンタルで済ませようとする人も増え、着物を購入する人は減ってしまいました。

さらに現代人の着物離れは、市場規模の減少以外にも、売り上げに悩む小売店での「押し売り商法」や、伝統工芸の「後継者不足」にまで発展しています。

日常ファッションとして若者の関心は高いが、成人式の振袖を購入する割合も年々減少傾向に

市場が縮小する一方、若者の着物に対する関心は高い状態にあります。

着用意向

(引用:経産省繊維課アンケート結果

経済産業省データによると、20~30代の女性の約8割は着物の着用経験があり、そのうちさらに7~8割近くが今後も着物を着用したいと回答しています

フォーマル路線となった着物ですが、「冠婚葬祭」以外にも、ファッションやイベントとして着物を着用してみたいと考えている20~40代女性は約四分の一いることからも、その関心の高さが見て取れます。

着用シーン

(引用:経産省繊維課アンケート結果

しかし一方で、今なお和装の文化が根強く残るイベント「成人式」での振袖購入率は年々減少傾向。

2014年の成人式アンケートでのレンタル率は約40%だったのに対し、2019年は約60%近くまで増加。逆に購入の割合は2014年が約30%で、そこから年々減少し、2019年は約10%と、関心は高いものの、購入には至っていないことがわかります。

なぜ関心は高いのに市場規模は大きくならないのか、次からはその原因について考えていきましょう。

日本人が着物を着なくなった…「着物離れ」の原因とは

経産省アンケートによると、着物を着るに至らない理由として最も大きいのが「一人できるのが大変」次いで、「着る機会がない」「費用がかかる」が挙げられています。

着なかった理由

(引用:経産省繊維課アンケート結果

着物離れの主な原因として考えられる要素は以下の通り。

  • 着方がわからない、面倒
  • 買い方がわからない
  • 保管の仕方がわからない
  • 動きにくそう
  • 値段が高そう、費用がかかりそう
  • マナーがわからないし面倒、正しい着方をしないと注意されそう
  • 夏に着ると暑い

しかしよく見てみると、「そんなことないのにな」「もっと着物のことを知ってもらえれば好きになってもらえそう」という項目がいくつもあります。

着物離れの原因と「着物のホント」について見ていきましょう。

着方がわからない、着付けが大変

振袖

着物には帯の結び方や羽織る順番など、洋服に比べて複雑そうな手順があります。自分で手軽に着られない以上、なかなか手が伸びないのも仕方のないことかもしれません。

途中で気崩れたりほどけたりしないか心配しながら過ごすのも疲れてしまいます。さらに正しい補正や、場や季節に応じた着物を選ばなければならない点なども初心者にとってはハードルが高く思えてしまいがち。

現に着物を着ない理由に「着方がわからない」ことを挙げている人はもっとも多く、どの年代でも18%前後います

しかし現在は無料の着付け教室や、ネット動画などもあり比較的簡単に着付け方法を学ぶことが可能です。

また、帯を巻いて留めるだけの結ばない帯結びや、ベルトで留めるといった手法、襦袢ではなくパーカーやシャツを中に着るといったアレンジもあり、自由に着物を楽しんでいる人も多くいます。

保管、管理の仕方がわからない、面倒

服とお金リサイクル

着物というと正絹の振袖などを想像する人が多いでしょう。

着物の中でも正絹で作られた着物は、かなり気を遣わないとあっという間に傷んでしまいます

時間が経てば黄色く変色してしまったり、湿気でカビが生えてしまったり。その上自宅で洗うことが難しく、汚れれば専門のクリーニングを利用しなくてはいけません。基本的に以下の管理は必須と思っていいでしょう。

  • たとう紙を交換する
  • 桐のタンスか衣装箱に保管
  • 年2回程度の陰干しをする

たしかに毎日着る洋服に比べて、手間が多いように感じますね。

しかし同じ着物といえど、着物は素材によって適切な管理方法が異なります。

ポリエステルやウールなどの素材は自宅で洋服のように洗濯することができるので、普段着に適した着物です。

通常だと陰干しは年2回ほど必要ですが、ポリエステルならカビも生えにくいので保管も簡単。

ドレスなどは管理が大変なのと同様、着物もよそ行きのフォーマルなものは手入れが必要です。

しかし普段着に関してはそこまで神経質になる必要は無いのです。同じ布製品ですからね。

購入の仕方がわからない

電卓

着物の購入は、洋服の購入のように簡単にできるものではないと感じていると思います。そもそもどこで買うのかわからないかもしれません。

何となく高そうなイメージはあるけれど、目安がわからなくてぼったくりに合わないかなど不安も大きいと思います。そもそも襦袢や腰紐など、何をどうそろえればいいのかも難しいところ。

着物を選び、購入した経験のある20代~50代女性に、購入先として最も多く選ばれたのは地元の呉服店です。地元の店であれば、すぐに実物を見て手に入れることができるというのが大きいでしょう。

また割合別だと、50代女性の割合が最も高かったのが百貨店なのに対し、20代女性の多くが選んだのは全国チェーンの呉服店でした。

50代の場合、百貨店で質の良いものを選ぶことを重視しますが、20代は店のブランドイメージを重視する割合が増えています。洋服やバッグなどと同じく、名の知れた全国レベルの店で購入したいという消費意欲が反映されたのです。

一度呉服店や百貨店で着物を見てみて、それでも敷居が高いということであれば、試しにネット通販や中古店で安く手に入れるのも一つの手です。

あまり気負いすぎずに、好きなブランドの洋服を見るのと同じ感覚で、ウィンドウショッピングから始めてみれば楽しめるでしょう。

動きにくい、苦しいというイメージがある

振袖04

着物は動きにくく、苦しいものだというイメージがありますよね。

確かに着物は袖が長いし、歩幅にも制限があって動きにくそうに見えます。さらに胴回りに帯や紐を巻き付けるので、ある程度の締め付けはどうしても感じてしまうでしょう。

ただし普段着用の着物はそこまでかっちりしたものばかりではありません

重たい布を何枚も羽織って、何重にも紐をして、帯も飾り立てて…というのは、洋服でいうところのドレスやタキシードのようなフォーマルなものだけ。

普段楽しむ分には、紐の数を減らしたり、帯も最低限落ちてこない程度の締め付けに調整している人がほとんどです。

最近では苦しさを軽減するゴム製の紐などもあるので、想像しているほどの苦しさや動きにくさは感じず、むしろ帯に体を預けられる感覚が心地よくなりますよ。

着物は高いというイメージがある

招き猫

多くの人にとって、着物は高級品というイメージがあると思います。そのイメージは、正絹でできた着物など、フォーマル路線の着物の存在感が大きいためでしょう。たしかに作家ものの着物や手描きや刺繍、金箔を施した帯や着物の中には目が飛び出るほどの価格のものが多くあります。

しかしそれはあくまでフォーマルなものの話。

ポリエステルやウール素材の着物は高くても数万円。最近人気のアンティーク着物やリサイクル着物などの中古の着物であれば1,000円程度から購入できるものもあります。

またメルカリなどのフリマアプリや、ヤフオクなどのネットオークションでも、手ごろな値段の着物を低入れることが可能です。

何かと高いイメージのある着物ですが、洋服同様ピンからキリまでということですね。

マナーがわからないし面倒、着物警察にルールを注意されそうで嫌

半襟

着物を着たくないという理由の1つに、着物警察という存在があります。

着物警察とは、着物を着ている人に向かって「帯の結び方が変だ」、「あんなペラペラなポリエステルの着物恥ずかしくないのかしら」などマナーや慣習、個人的な価値観を押し付けてくる人のことです。

せっかく着物を着てお出かけしたのに、そんなことを言われたら嫌な気分になりますし、着物を着たくなくなりますよね。

それでも近年は、着物警察に対して、もっと自由な着物の着こなしを楽しむべきと訴える風潮が高まっています。

たとえばタートルネックの洋服の上に着物を着るなど、自由な着こなし方も増えているので、まずは楽しんで着てみると良いでしょう。

お気に入りの着こなしが見つかったら、ぜひ外出してみてください。

あたたかい言葉をかけてくれる人もいるはずですから、想像しているほど、現在は着物警察を恐れる必要がないことがわかりますよ。

昔より気温が高くなり、着物を着ると暑い

浴衣

近年は地球温暖化により気温が上がっており、都市部以外でもアスファルトの面積が増えた結果、ヒートアイランド現象が加速しています。それによって熱帯夜の日も増えているため、半袖のシャツや短パンなど、なるべくラフな格好で出歩く人を多く見かけるようになりました。

着物は基本的に重ね着をするものなので、猛暑日にわざわざ着物を着ようという気になれないのは当然です。

ただし、着物には「絽」や「紗」といった透けた素材でできた夏用のものや、襦袢と重ね着をせず一枚で着用することを想定した「浴衣」があります。

夏用の着物は肌に張り付かない素材でできているうえ、適度に汗を吸収してくれるため、単純に薄着をするより涼しく感じることもあるくらいです。

また暑い日に薄着でお腹を冷やしすぎると体調を崩しますが、着物なら帯でお腹周りを守れるようになっています。

通気性の良い素材の着物を選び、帯でお腹を守る。そして涼しい風の吹く中を出かければ、着物を着ながら夏の外出を楽しめます。

若者・日本人の「着物離れ」への対策

振袖03

日本の若者の「着物離れ」の原因について見てきましたが、何の対策も成されていないわけではありません。

最後に「着物離れ」への対策として実施されている、国や地域での取り組みをご紹介します。

経済産業省では2015年に和装振興研究会を設置

経済産業省は2015年に和装振興研究会を設置しました。

研究会は、着物を着たい若者がいることや海外から日本文化として注目されていることを踏まえ、着物需要を増やすために必要な策を検討。

そこでは着物文化を継承すると同時に、地方創生についても討議されました。実際に地方で着物を観光資源にする動きが活発化しています。

観光やイベントと結び付けて「着物離れ」を対策する地域も

着物離れの「着る機会がない」という要因を打破すべく、対策を行う地域もあります。

京都市|着物着用で特典ありの「京都きものパスポート」

京都着物パスポート

(画像引用:京都きものパスポート公式サイト

京都市で行われている取り組みに「京都きものパスポート」があります。

着物か浴衣を着て、「京都きものパスポート」という小冊子を提示すれば、京都市内の観光名所や店舗で割引などのサービスを受けられるのです。

小冊子は例年9月下旬から観光案内所や駅で無料配布され、有効期限は10月1日~翌9月末までの1年間。各種割引に加え、呉服店に着崩れを無料で直してもらえるなど、着物を着るだけでたくさんのサービスを受けられるのは太っ腹ですね。

※2020年は中止

川越市|毎月8日、18日、28日は「川越市きものの日」で特典あり

着物の日川越市

(画像引用:川越市きものの日

埼玉県川越市では、毎月8のつく日(8日、18日、28日)に着物か浴衣を着て散策すると、協賛店で割引や各種サービスを受けられます

1月18日には「きもので初詣」という、着物を着た人たちで市内の寺院を巡るイベントが開催されるので、外国からの観光客にも人気です。

萩市|「着物ウィーク」は着物レンタルができる楽しいイベント

着物ウィーク萩

(画像引用:萩市観光協会公式サイト

毎年10月初旬に開催される山口県萩市の「着物ウィーク」は着物レンタルもできるイベント。

着物を着て萩・明倫学舎か萩市観光協会に行くと専用のパスポートがもらえます。協賛店で提示し割引を受けることもできるので、楽しいとお得を詰め込んだイベントですね。

城下町である萩市を、着物を着て散策すれば気分も盛り上がること間違いなしです。

まとめ

和服が敷居の高い存在になったことによる「着物離れ」。

しかし国、地域、ファッション業界などで、着物文化を守ろうという取り組みが盛んになっているのも事実です。

自由なスタイルで気軽に着物を楽しむことが、着物文化を継承する第一歩になるでしょう。

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