「正絹ってどんな着物の事をいうの?」着物初心者さんの中にはそんな疑問を持っている人もいるのではないでしょうか?
そこで、今回は「正絹」の着物について、特徴や買取相場、そして正絹についての疑問などを詳しく解説していきます。
正絹とは?
そもそも正絹とはどのようなものの事をいうのでしょうか?
正絹は「生糸」で織られた「絹100%」の生地のこと
正絹とは、蚕の繭から取れる「生糸」を原料に織られた「絹100%」の生地です。
繭は、蚕が吐き出す長さ約1,300mにもなる1本の細い糸で作られていて、その繭から取り出した糸を以下の工程で絹糸に仕上げます。
- 1)繭の糸口(端)を探す
- 2)10個程の繭の糸を引き出しながらまとめ「生糸」を作る
- 3)生糸のまわりを覆っている「セリシン」と呼ばれるたんぱく質を取り除く
上記の工程を経て、光沢のある絹糸が出来上がり、反物として織り上げられられたものを「正絹」と呼びます。
蚕から取れる糸は生糸以外にもある
蚕の繭から作られる糸は「生糸」の他にも、「紬糸」と呼ばれるものがあります。同じ蚕の繭から出来ているのですが、紬糸で作られたものは「正絹」とは呼びません。
紬糸は、生糸を作る事が難しい以下の様な規格外の繭を使って作られます。
- 蚕が成虫になり蛾として繭から飛び出してしまったもの
- 繭の一部分が変色してしまっているもの
- 2匹の蚕が同時に作った繭(玉繭)
これらのいわば「不良品の繭」を1度煮出して広げ、「真綿」の状態にしてから繊維を少しずつ引き出したものが「紬糸」です。
こうして作られた紬糸はふんわりと空気を含んだ軽い糸になります。手で紡ぎだされるため太さも均一ではありません。織りあげられた生地は、所々に紬独特の「節」と呼ばれる凹凸が現れ、ざっくりとした風合いに仕上がります。
このように生糸以外の糸で作られたものは「正絹」とは呼ばず、生糸で作られたものだけを「正絹」と呼びます。
正絹の着物の特徴
主に正絹が使われる着物の種類と、正絹のメリット、デメリットをみていきましょう。
正絹が使われる着物や和装小物の種類
正絹は、振袖、留袖、訪問着、付け下げ、色無地など格の高い着物に使われ、また、染めの小紋にも使われます。
着物以外にも、長襦袢や帯揚げ、半衿等にも多く正絹が使われています。
正絹の生地のメリットデメリット
正絹の生地のメリットは以下の通りです。
- 着崩れしにくい
- 肌ざわりが心地よい
- 静電気が起こりにくい
- 光沢があり、高級感がある
- 通気性、保温性にすぐれている
しかし、反対に以下のようなデメリットもあります。
- 価格が高い
- 自宅で洗えない
- 水気、湿気に弱い(水分を含むと、シミや縮みの原因になる)
優しく肌にフィットし、着崩れず、通気性も良い正絹ですが、価格が高く、「自宅で洗濯する」などのホームケアが難しい事、水気や湿気を嫌うので雨にも弱く縮みの原因にもなってしまうのが難点です。
そのため、雨の日の街歩きには手入れの楽なポリエステルをあえて選ぶという人も多くいます。
正絹以外は安っぽいと切り捨てるのではなく、生地の特性を理解して、その日の天候や気温に合わせた着物をチョイスするのがいいですね。
正絹の着物に関するQ&A
正絹に関する疑問をQ&A方式でまとめてみました。
Q.洗濯はできる?洗い方は?
A.洗濯はできるけれど縮んでしまうリスク大なので自己責任で。それでもOKならホームケアに挑戦してみて
正絹の着物は、水や湿気に弱く、シミや生地の縮みの原因にもなってしまいます。特に、縮緬(表面に「シボ」と呼ばれる凹凸があるもの)や、絞り(布の一部分を糸で括り防染して染めた着物、生地表面には凹凸がある)は、縮みやすい生地です。
このような生地の特性上、正絹の着物はクリーニングに出すのが一番のおすすめです。
しかし「自宅で絶対洗えない」という訳でもありません。「縮むかもしれない」というリスクを覚悟して、自己責任で行う場合には、以下の方法でホームケアしてみて下さい。
注意点は「洗濯機を使わず、必ず手洗い」で行う事です。
- 大きめのたらいに水を溜める
- おしゃれ着用の洗剤を混ぜ、着物を静かに入れる
- 押し洗いする
- 10分ほどつけ置きする
- たらいの水を捨て、新しい水と入れ替えてよくすすぐ
- 脱水せず、そのまま着物用ハンガーに掛けて乾かす
脱水を行わないと着物の裾から水がしたたってきますが、そのまま日の当たらない屋外で干しましょう。
正絹の着物は特に縦方向に縮みやすく、着物の生地が水分を含んだ重みで下へと引っ張られ、シワや縮みを抑えることができます。
Q.アイロンはかけてもOK?
A.おすすめはしません。あくまでも自己責任で…。ただしその際は水分とアイロンの温度に注意
正絹は水気に弱いので、アイロンでシワを伸ばす際に霧吹きなどを使うと、着物地が縮んでしまう場合があります。
少量のシワであれば、まず着物専用のハンガーに着物を掛けて、数日間干しておくだけでもキレイにシワ取れる事が多いのでとりあえずかけてみましょう。
干しても取れないシワなどは、クリーニング店に持ち込み、専門家にシワ取りしてもらうのが一番の方法です。
しかし、急いでいる場合で、どうしてもすぐにシワを取りたい場合は、あくまでも自己責任で行いましょう。手順は以下の通りです。
- 1)アイロンをかけたい部分に当て布をする
- 2)温度を中温にセットする
- 3)当て布の上から霧吹きする
- 4)決して1カ所に留まらず、やさしく素早くアイロンを動かす
この時、着物地には直接水をかけないようにしましょう。縮みの原因になってしまいます。
また、アイロンを掛ける時には、最初に、帯の下になる部分やおはしょりとして中に折り込む部分で縮みがないかをチェックし、それから見える部分へのアイロンがけを行いましょう。
絞りの着物や、刺繍がしてある着物は、独特の立体感があります。このような着物にアイロンをかけると、せっかくの立体感が失われてしまうため、おすすめできません。
また、金箔や銀箔などが施されている場合も変色する可能性があるので、十分注意が必要です。
Q.正絹の着物の手入れは具体的に何をすればいい?
A.着用後は陰干し、その後は「たとう紙」で包み、防虫剤、乾燥材を入れて収納、更に一年に一回は虫干しを
まずは着物の着用後、収納する前に陰干しを行います。着物の湿気を取り、シワをなくすためです。
陰干しは、着物専用のハンガーに掛けた着物を直射日光の当たらない屋外や、室内で半日から1日程度干します。
さらに、収納する時には、着物を一枚一枚「たとう紙」で包みましょう。こうすることで、着物を湿気から守り、他の着物地との摩擦を防ぎ生地同士の擦れによる傷みを防止する事ができます。
たとう紙で包んだ着物は乾燥材や防虫剤を入れて、湿気と虫食いから守ります。この時に使う乾燥材は100%シリカゲルのものがおすすめです。また防虫剤は複数社のものを使用すると、防虫剤同士が化学反応を起こし、シミや変色の原因になることがあるので、かならず1種類のみを使用するようにしましょう。
ウールの着物など虫に食われやすい素材と一緒にしまってしまうと、被害が広がります。できるだけ詰め込みすぎず、大事な着物は分けておきましょう。
陰干しは、できれば年に1回、直射日光の当たらない屋外や、屋内で半日から1日程度干すのが理想的です。
Q.正絹とポリエステルは何が違う?見分け方は?
A.正絹と安価なポリエステルでは、光沢や肌ざわりが全く違いますが、高級ポリエステルだと素人には見分けがつきにくいことも
正絹の質感は以下の通りです。
- 肌に優しい着心地
- 光沢があり、高級感がある
- 所作の度に、シャッシャッと独特の音がする
- 生地に重みがある
一方ポリエステルは以下のような特徴があります。
- 生地がゴワゴワしている
- 通気性が悪い
- すぐに着崩れる
正絹と安価なポリエステルを並べてみると、光沢や生地の質感などですぐに見分けが付きます。
ただ最近では「東レシルック」等の、絹の質感に限りなく近づけて作られている「高級ポリエステル」や、絹とポリエステルの混ざった交繊もあり、素人では判断することは難しいもあります。
正絹か、ポリエステルかで自宅で洗濯できるかどうか(ポリエステルは自宅で洗濯可能)など扱い方も変わってくるので、判断がつかない場合には一度、着物屋さん等の着物に詳しい人にチェックしてもらうのがおすすめです。
一応、生地の不要な部分を小さく切り出して火をつけ、燃えカスを見るという方法もあります。
絹はパラパラとカスが崩れるのに対し、ポリエステルはぎゅっと固まるので見分けが可能です。ただし火を取り扱うのは危険なので、周囲に燃えそうなものを置かないなど、試す場合はよく注意しましょう。
正絹の着物の買取相場の目安
正絹の着物の買取相場の目安はどのくらいなのでしょうか?
正絹は着物の中でも高価買取が期待できる
正絹の着物と一口に言っても、保存状態や着物の格で買取価格には大きく違いが出ます。以下は、保存状態の良い前提での種類ごとのおおよその買取価格の目安です。
正絹の着物の買い取り相場
- 振袖:10,000~40,000円程
- 留袖:1,000~5,000円程
- 訪問着:数千円~30,000円程
- 小紋:100~10,000円程
このように、同じ正絹の着物でも種類によって買取価格は変わります。
また、「着物の格は高ければいい」というものでもなく、留袖などの格の高い着物でも、めったに着る機会の無い着物は、需要が低く、その分買取価格も高値が付きません。
正絹以外の素材の着物は買い取ってもらえる?
正絹以外の素材でも、高く買い取られる着物もあります。
大島紬や結城紬などの着物は、格の低い「おしゃれ着」に分類される着物です。しかし、大変人気が高い着物で需要も高いため、無名の物でも3,000~10,000円の高値が付きます。
また、「宮古上布」や「八重山上布」などの有名産地の麻織物も3,000~10,000円程と高値です。
更に証紙(着物の品質や産地、伝統工芸品などを証明するもの)や、落款(着物を手掛けた作家の印)等があるものは、300,000円以上するものもあります。
ウールやポリエステルは、元々の価格が安く、市場に多く出回っているため、値段が付かない事もあります。また、買取業者によっては、最初から買取対象ではない場合もあるので、確認が必要です。
まとめ
正絹の着物は、格の高い着物の生地として使われ、滑らかな肌触りと美しい光沢のある高級品です
フォーマルシーンでも大活躍してくれる正絹の着物を、少しでも長く着れるように、少しでも高く売れるように、大切に保管しましょう。