「着物にも衣替えってあるの?」「季節ごとの使い分けが難しい…」
洋服にも夏服や冬服があるように、和服にも季節に応じた着物があるのです。
この記事では、季節ごとの着物や帯や小物類を紹介しながら、着物の衣替えについて説明しています。着物の衣替えをしっかり理解すれば、季節感を重視する和服と上手に付き合えるようになるでしょう。
着物の衣替えとは
そもそも衣替えとは何なのか、その由来や歴史を知っておきましょう。古来から続く習わしには、先人の知恵が詰め込まれています。
なぜ衣替えをするの?|衣替えの由来と歴史-旧暦から続く文化
衣替えはもともとは中国の習慣で、平安時代ごろに日本に伝わったとされています。室町時代から江戸時代にかけて、礼服を季節に合わせて入れ替える衣替えが定着してきました。
衣替えでは、仕立て方や素材、色柄などによって季節ごとにふさわしい着物を入れ替えます。
一年を通して気温も天気も大きく変動する四季折々の日本にとって、衣替えは快適に過ごすための知恵として理にかなっているのです。
その習慣が、洋服が主流となった現代でも受け継がれています。
いつ衣替えをするのがベスト?|衣替えの時期とタイミング
衣替えをする時期は、通説では6月1日と10月1日とされています。学校や会社の制服切り替えのタイミングも、この日に合わせて実施されることが多いですよね。
ただし、実際には春先や秋口でも暑かったり、逆に暖かくなってきたと思っても急に寒くなったりと、さまざまです。
そのため、現在は日付よりも気温に合わせて柔軟に衣替えをすることも増えてきています。そうすることで、より日常生活に寄り添った衣替えと言えますね。
また、衣替えは着物だけでなく、帯や長襦袢や小物類も入れ替えます。少し暑い日には長襦袢だけ夏物にしたりと、場合によっては着るものの組み合わせで着心地を調節できるのも便利なポイントです。
着物の衣替え|3種類の着物を季節ごとに使い分ける
着物には仕立て方や素材によって、袷(あわせ)・単衣(ひとえ)・薄物(うすもの)などの種類があるのはご存じかと思いますが、いつどの着物を着るのか悩ましいですよね。
まずは、季節や気温による着物の使い分けについて解説します。
10月~5月|袷(あわせ)をメインに暑い日には単衣を着てもOK
袷の着物とは、裏地を付けて仕立てられた着物のこと。胴、袖、裾などすべてに裏地が付いており、生地をやさしくつまむと二重であることがわかります。
絹・木綿・ウール・麻・ポリエステルなど、どんな素材でも袷に仕立てることはできますが、一般的なのは絹・ポリエステルなどです。
袷の着物は、基本的には10月~5月に着用します。
1年で最も長い期間着られる着物なので、初めて着物を購入する場合や仕立てる場合は袷の着物を選ぶとコスパが良いですね。
ただし、現代では昔より温暖化によって気温が上昇しているため、必ずしも暦通りにはいかないという点も踏まえておきましょう。
特に10月上旬や、5月下旬などでまだ暑さが続く場合は、裏地の無い単衣の着物を着ても大丈夫です。
5月なら優しい淡い色、10月なら深い赤や茶色といったように、単衣であっても色だけはその季節に合わせた色のものを着用しましょう。
6月・9月|単衣(ひとえ)をメインに夏日は薄物でも
単衣の着物とは、裏地を付けずに仕立てられた透け感のない着物のこと。袖口や裾の裏を見ると、裏地がなく、表面の生地が折り返されて縫われているのがわかります。
裏地がない分、袷よりも軽くて風通しがよいのが特徴です。
使われる素材には、絹・ウール・木綿・綿麻などが多いですね。
単衣の着物は、基本的には初夏の6月や初秋の9月の、袷の季節から夏に移行する時期に着用します。本来この季節は、暑くもなく寒くもなくという気候なので、裏地のない単衣着物が適しているのです。
ただしウールの単衣は、洋服でいうセーターと同じように真冬に着るものです。浴衣も裏地がなく透けていませんが、知っての通り、真夏の暑い時期に着るもの。単衣仕立てと言っても、素材によって例外があるので、注意しましょう。
また、梅雨の明けた6月や、残暑の厳しい9月でも気温が高い日には、単衣ではなく夏用の薄物を着てもOK。ただ、盛夏ではないので透け感の少ないものを選んだ方が良いでしょう。長襦袢の色と着物の色を同系色にすれば、透け感が抑えられますよ。
7月・8月|清涼感のある薄物(うすもの)、夏物で涼やかに
薄物の着物とは、裏地を付けずに仕立てられた透け感のある着物のこと。単衣と同じ仕立て方ですが、夏用の生地が使われている点が異なります。
代表的なのは、絽(ろ)や紗(しゃ)などの目があくように織られた透けている着物です。透けている分、単衣よりもさらに風通しが良いので、真夏でも着られます。
絽や紗には、正絹やポリエステルの素材がよく使われています。他にも、綿絽という木綿素材のものや、紬で透けているものも見かけますね。
また、夏の素材と言えば麻。
麻は、ハリが強く肌に張り付きづらい上に速乾性もあるため、夏でも快適に着られるのです。麻は夏の素材なので、透けていなくても薄物として扱われます。
薄物の着物は、基本的には7月・8月に着用しますが、先ほども紹介したように暑い日には我慢せずに、夏物を着ても大丈夫です。
少しでも涼しく着物を着るためのポイントは以下の記事でも紹介しています。
帯の衣替え|透け感によって夏とそれ以外を分ける
帯は、夏ものと夏以外のものの2種類に大別されます。透け感の有無が、分け方のポイントです。
春・秋・冬|透け感のない帯を使用
春・秋・冬(9月~6月)は透け感のない帯を使用することが基本です。
透け感というのは、どうしても盛夏という印象を与えてしまうので、夏以外には透け感のない帯を使用しましょう。
ただし春・秋・冬といっても、期間がかなり長いですよね。気温も天候も全然違います。そのため、透け感のない帯の中でも、各季節に合わせた帯を選ぶ必要があります。
たとえば、少しふんわりした生地の帯は冬に、さわやかな色の帯は初夏の6月に…といったように素材感や色合いによって帯を選びましょう。
他にも、春には桜や藤といった季節の花、秋には紅葉や山茶花などの柄、冬には落ち着いた赤やオレンジなどの暖色系というように、季節に合わせて色柄を使い分けられます。
袷から単衣を着る時期になると、袋帯では重たくなりすぎるので、名古屋帯を合わせるといった工夫もいいですね。
夏|麻や、絽・紗・羅の透け感のある帯を使用
夏には、夏素材の定番である麻や、透け感のある絽・紗・羅(ら)の帯を使いましょう。
絽は一定間隔で目があいている生地、紗は全体的に目があいている生地、羅はざっくりとした網目状の生地。目があいている分、軽くて風通しが良いのが特徴です。
帯まわりは特に布が多く汗をかきやすい部位です。夏には透け感があって通気性の高い素材の帯を使うと快適に過ごせるでしょう。機能的にも見た目にも涼しい帯で、暑い夏をできるだけ涼しく着物で楽しめます。
悩ましいのはまだ気温の高い6月と9月の単衣と薄物を行ったり来たりする時期。
基本的に季節を先取りした着こなしが粋とされる着物ですから、6月は絽や紗の夏物を用いても問題ありませんし、下旬からは薄物の着物に合わせ、羅や麻の帯を締めてもいいでしょう。
一方9月はやはり秋の装いにしたいところ。着物を夏物にするときは羅や紗は避け、網目の細かい絽の帯あたりがいいですね。
帯揚げも透け感を見て衣替えをする
帯揚げも同様に、透け感の有無で着る季節を選びます。
袷の季節には、透け感のない帯揚げを使用しましょう。ちりめんや綸子(りんず)、絞りなど、透け感のないものならほとんど使えます。
単衣の季節にも透け感のないものを使いますが、その中でも楊柳(ようりゅう)や絽ちりめんは涼しげで良いですね。楊柳にはたてしぼがあるので表面がぼこぼこした肌触りとなり、少し涼しげに見えます。夏の前後の移り変わりの季節にはぴったりでしょう。
夏には、夏の着物や帯と同様に、透け感の強い絽・紗・麻の帯揚げを使います。
帯締めは通年利用可能。色で季節感を出すとおしゃれ
帯締めは、基本的に一年を通して使うことができます。その中でも季節感を出すためには、色を意識すると◎。
暖色系は寒い季節に、清涼感ある色は暑い季節にといったように、帯締めの色で季節感を出しましょう。さらに、帯締めと帯揚げの色を統一するとグッとおしゃれに決まります。
通年利用できる帯締めですが、レースの帯締めなどは夏のみ使用できるものなので注意してください。
長襦袢・半衿の衣替え|素材と仕立てが異なる
着物や帯だけでなく、長襦袢や半襟にも衣替えがあります。より肌に近い部分なので、素材や仕立てが変わるとグンと快適に感じられます。
10月~5月|無双袖で居敷当てあり、半襟は塩瀬やちりめんが一般的
10月~5月は気候に合わせて袷と単衣の襦袢を切り替えます。だいたい冬の寒い時期は袷、それ以外は単衣です。
ただ単衣の長襦袢でも、10月~5月は袖に裏地のある「無双袖」居敷当て付であることが一般的。
居敷当てとは、お尻や腰に当たるように付けられた内側の布で、傷みやすいお尻まわりの生地を補強するために付けられたもの。結果として居敷当ての部分は2枚重ねになるのである程度の保温効果も期待できます。
素材には、透け感のない生地で、正絹(ちりめん・綸子など)やウールや化繊などが使われます。
半襟は塩瀬が最も一般的です。他にも、ちりめんやふくれ織りなども使えます。
5~6月・9~10月|暑い日には単衣袖で
5~6月・9~10月は、真夏ではありませんが暑い日がまだまだ多いですよね。
そんな暑い日には、単衣の長襦袢で、袖に裏地がない単衣袖にしましょう。袖の裏地がない分、無双袖よりも涼しく着られますよ。
素材には、通気性のある絽ちりめんや綸子などがおすすめです。
麻素材や絽などもっと涼しい生地の長襦袢でも着用可能ですが、袖口や振りから見えるという点をふまえて、着用する時期に合わせて選んでください。
半襟には、絽ちりめんや楊柳がふさわしいでしょう。
7~8月|単衣袖で生地は麻か絽が一般的
夏の長襦袢は一般的に、麻素材や絽の生地を使った、薄くて風通しの良いものを使います。もちろん、身ごろにも袖にも裏地のない単衣仕立ての長襦袢です。
居敷当ては付けないことが多いのですが、透けるのを防ぐために付ける場合もあります。夏は着物が透けている生地なので、着物の下に着る長襦袢にも注意する必要があるのです。他の季節にはない注意点なので、忘れないようにしましょう。
麻以外にも、絽や紋紗に織られている正絹や化繊素材のものもあります。とにかく涼しく着たいから麻、気軽に自宅で洗いたいから化繊など、自分の優先順位に合わせて選びましょう。
半襟には、絽・紗・麻素材などの透け感のあるものを付けて、顔まわりを涼しげに装います。
衣替えの時期にやっておくべきこととは
衣替えをするにあたって、着物を長持ちさせるためにやっておくべきことがあります。
衣替えをするときは、持っている着物をひと通り出すので、ついでにお手入れもしておきましょう。わざわざお手入れのために取り出すよりも、スムーズにできます。
着物の保管方法、保管場所についてはこちらの記事も参考にしてください。
シミ・汚れのチェックはしまう前にも着る前にも行う
着物にシミや汚れがあった場合は、できるだけ早く専門店へ処理をお願いしましょう。
時間が経つと、プロでも落とせなくなったり、高度な技術が必要となり高額となってしまったりしてしまいます。
そこで、シミ・汚れのチェックを着る前にもしまう前にも行うのがおすすめ。
定期的にチェックすれば、汚れたまましまいこんで汚れが広がる…なんていう事態も避けられます。
チェックすべき箇所は、皮脂やファンデーションで汚れやすい襟元、食事や手洗い等で汚れやすい袖口、泥や雨が飛び散りやすい裾まわり。この部分は必ず汚れやシミがないか確認しましょう。
もし汚れや変色があった場合は、何によるものなのか思い出せるとなお良いです。シミ抜きや汗抜きなどのその後の処理がしやすくなります。専門店に出す場合は、その心当たりも一緒に伝えておきましょう。
また、目に見えるシミや汚れがなくても、大切な着物はお手入れに出してプロにチェックしてもらうと安心です。素人には気づかれないシミや汚れは意外と多いのですよ。
シミ汚れの処置についてはこちらの記事で紹介しています。
着た後、着る前に干してシワを伸ばす
着る前には、美しく着てあげるためにもしっかりシワを伸ばします。
着物を着る予定日の遅くとも前日までには、タンスから出して室内に干してください。特に久しぶりに出す着物は2~3日前からだしておくと良いですね。しっかりとシワを伸ばして、着物を美しく着こなしてあげましょう。
さらに着た後にも、着物を長持ちさせるためにシワを伸ばします。
着物を着た後には、着付けによって色んなところにシワがついてしまいますよね。そのシワをしっかり取ってからタンスにしまってくださいね。少なくとも丸一日は干しましょう。
虫干しは虫の防止と追い出し、両方の意味がある
虫干しは、着用の有無に関わらず、持っている着物をすべて干すことです。
よく晴れた湿度の低い日に、日が当たらない室内で着物ハンガーにかけて丸一日干します。一気にできない場合は、日を分けて行いましょう。
干す時間がない場合は、着物はたとう紙に入れたままで、たんすの引き出しを全開にしておくという方法もあります。ただし効果は減ってしまうので、できるだけきちんと干すことがおすすめです。
まとめ
和服には、季節に合わせた着物や帯や小物類があることがわかりましたね。
快適に着るための機能面はもちろん、色柄や風合いといった見た目も季節に合わせると、とても粋な着こなしになります。
着物を着るときには、ぜひその日の気候や季節の雰囲気に合わせてコーディネートを考えてみてください。
着物や帯、ひとつひとつの小物にまで意味を持たせてコーディネートすると、ますます着物を着るのが楽しくなりますよ。