着物を着る時、どんな履物を選べばいいか迷うことはありませんか。
日本には下駄、草履、雪駄(せった)といった、靴以外の履物が色々あります。そもそも、これらにはどのような違いがあるのでしょうか。
草鞋(わらじ)も含めて、今回はその違いや見分け方、履く場面について紹介します。
下駄、草履、雪駄、草鞋の違いの見分け方は「素材」「形」「履くシーン」
下駄、草履、雪駄、草鞋、これらはいずれも日本の伝統的な履物です。共通点として、全てに「鼻緒」があります。
また、家に入るときに着脱しやすいというのは下駄、草履、雪駄に通じます。家に入るときは履物を脱ぐという日本の習慣ならではの履物と言えるでしょう。
素材や形、履く場面、履き方など、似ているようでそれぞれ違いがあります。違いや特徴をまとめたのが次の表です。
下駄 | 草履 | 雪駄 | 草鞋 | |
素材 | 木 | 藁/竹皮/イグサ 革/布/ビニール |
竹皮に革が 多い |
稲藁 |
底の形 | 歯があるものと ないものがある |
歯がなく平ら | ||
履く シーン |
カジュアル | フォーマル (カジュアル 向きのものも) |
男性用フォーマル (男女カジュアル 向きのものも) |
お祭りや 伝統行事 |
主な 特徴 |
木製なので歩くと カランコロンと 音がする |
底の厚みを出す 「重ね芯」 |
底に滑り止めの 金具がついている |
足の甲と足首も 紐で固定 |
(画像引用:新家庭百科第七巻/Amazo.co.jp)
表を見てわかるように、素材や形、履くシーンには違いがあり、そしてそれぞれ特徴的なポイントが異なります。一つ一つ、さらに詳しく見てみましょう。
下駄(げた)とは
夏になるとお祭りや花火大会などで浴衣姿に下駄を履いた人を多く見かけますよね。「カランコロン」という下駄の音がとても涼やかで、夏の風物詩の1つとなっています。
日本の伝統的な履物である下駄。その歴史は古く、弥生時代にまで遡るとも言われています。当時、水田で仕事をする際、沈み込むのを防ぐために使用されていた木の板「田下駄」。これが下駄の起源であると考えられています。
下駄の形|駒下駄・千両下駄・右近下駄など
下駄の形は主として「駒下駄」「千両下駄」「右近下駄」の3種類です。
「駒下駄」は人々が下駄と聞いて一番イメージしそうな、あの2枚の歯がある下駄で、最も基本的な形と言えます。
「千両下駄は」は駒下駄の2本ある歯のうち、前の歯をつま先部分から斜めにして付けたものです。下駄を履いた時の歩行は地面を蹴るような歩き方になるので、千両下駄のように前の歯が斜めになっていると前のめりになって地面が蹴りやすくなります。「のめり下駄」とも呼ばれています。
「右近下駄」は昭和の時代になって使用されるようになった比較的新しい下駄です。駒下駄や千両下駄の台が地面と水平であるのに対して、右近下駄は台部分にカーブがつけられています。
歯の形は千両下駄同様、前の歯が斜めになっています。台部分のカーブが足の形に馴染んで、より地面が蹴りやすく、千両下駄よりもいっそう歩きやすい造りです。また、地面に触れる部分にはゴムが付けられているものがほとんどなので、滑りにくいのもポイント。初めて下駄を履く方にとっては一番履きやすく感じるでしょう。
これらの種類以外にも、「舟形下駄」という草履と同じ形をした厚みのある下駄や、「高下駄」という歯が1本の下駄もあります。
下駄の素材|桐や杉が主流
下駄の素材は「木」で、使用される木は主に桐や杉です。
特に福島県会津地方の会津桐は国内生産の桐の中で最も品質が高いと言われており、この会津桐で作った下駄は大変丈夫で長持ちします。
下駄は堅い木で出来ているため、履くと足の裏が痛くなってしまいますが、この堅い木に足を乗せ、鼻緒を足の指で挟んで歩くことで足が丈夫になると言われています。昔の人は下駄で足を鍛えたのかもしれませんね。
下駄を履くシーン
夏のお祭りや花火大会で浴衣に下駄を合わせる人は多いと思いますが、そのように、下駄はカジュアルな場面で使用されます。
基本的に下駄は裸足で履くので、暑い夏に利用されるのが一般的ですが、小紋や紬など、カジュアルな着物でお出かけする場合に下駄を履くことも可能です。その場合は足袋に下駄のスタイルとなります。これなら夏以外の季節でも下駄を楽しむことができますね。
町歩きといったお出かけなら、歩いた時の下駄の音も心躍る明るい響きとなりますよね。ただ、場所によっては足音を立てずに歩きたい場合も。
たまたま見つけた美術館にふらっと入るということになれば、下駄の音は館内に響いてしまうかも。カジュアルな着物と下駄を合わせる時はお出かけ先をイメージして、草履か下駄を適切に選びたいものです。
草履(ぞうり)とは
着物を着用する際に最も利用される草履。4つの履物の中で一番目にする機会が多いのが草履ではないでしょうか。草履は平安時代に草鞋が改良されてできたものであると言われています。
草履の形|重ね芯の枚数によって格が変わる
草履の形は細型と小判型の2種類です。
かつては細型が主流でしたが、小判型は足をのせる部分が細型より広く、より安定感があることから、近年では小判型を利用する人も多くなっています。
草履の特徴と言えるのが「重ね芯」。
草履は「芯」を重ねることによって底の厚みを増したり、かかとの高さを変えます。芯の種類は、つま先からかかとまで一枚で出来た「通しの芯」と、足の中央部から後方部分にのみ重ねる「半月」という芯の2種類です。
重ね芯は「一枚芯」「一の二枚芯」「二の二枚芯」「二の三枚芯」「三の三枚芯」という表現で芯の枚数を表します。「一枚芯」は「通しの芯が一枚」ということです。では「一の二枚芯」とはどんなものでしょうか。これは「通しの芯が一枚と、半月が一枚の合計二枚の芯」という意味です。
つまり、最初の数字は「通しの芯の枚数」、二番目の数字は「重ね芯の合計枚数」で、二番目の数字と最初の数字の差が「半月の枚数」です。「二の三枚芯」は通しの芯が二枚で半月が一枚、合計三枚の重ね芯ということになります。
芯を重ねて出来る部分を「草履台」と呼び、この草履台が高くなるほど格上です。芯を綺麗に重ねていくには熟練した職人技が必要であり、草履としての価値もより高いものとなります。
草履の素材|竹の皮、イグサ、藁、革や布、合皮、ビニールなど多様
草鞋が改良されたものが草履の元であることもあり、昔の草履は竹の皮を編んで作られたり、イグサや藁が利用されていました。
最近は革や布製、合皮やビニール素材で出来たものが多くなっています。
草履を履くシーン
草履はフォーマルなシーンからカジュアルなお出かけまで、幅広く利用することができる履物です
下駄よりも格式が高く、振袖や留袖、訪問着などを着る際は必ず草履を合わせます。また、フォーマルな場面ではエナメル素材や金襴などを使用したもので、かかとの高さも5㎝以上の草履を合わせるのが常となっています。
草履台が高くなるほど格が上がると述べましたが、かといって、一枚芯の草履は礼装用に使用してはいけないのかというと、決してそうではありません。基本的なかかとの高さがあって華やかに仕上げられたものなら、結婚式などにも十分使用できます。
今は草履の種類も多く、遊び心たっぷりに鼻緒がデザインされたものや、歩きやすさを考えて工夫されたものなど様々です。カジュアルにお出かけするなら、自分の好みで気軽にコーディネイトするのも楽しいでしょう。
草履台の高さや重ね芯の重ね方で履き心地が異なるので、自分に合ったものを見つけてくださいね。
雪駄(せった)とは
雪駄の歴史は安土桃山時代に遡り、使い始めたのは茶人の千利休であったと言われています。
ある日、千利休は庭で足を滑らせ怪我をしました。それを知った織田信長は南蛮から伝えられた靴を履くよう利休に勧めますが、利休は茶の趣にふさわしくないと辞退。草履にこだわる利休の気持ちを汲んだ信長は、草履を改良して滑りにくくした履物を作らせ、利休に提供したのが雪駄の始まりとされています。
このように、滑り止めの機能が付いているのが「雪駄」で、歩くと「チャラチャラ」という雪駄独特の音がします。これは草履と区別する1つのポイントです。
雪駄の形
雪駄は男性の履物です。
女性用の雪駄もなくはないですが、男性物を指すことが圧倒的に多いので、雪駄は男性用と思っていても問題ないでしょう。
草履のような小判型や細型はなく、横幅が広めの長方形で角を丸くしたような形が主流です。
雪駄の素材
表側は竹皮で編んだ畳表が使用され、裏側には牛革を縫い合わせます。さらに踵(かかと)部分に滑り止めの金具が付いているのが従来からの基本的な雪駄です。
現在は素材も多様化し、畳表は茶色い「カラス表」と呼ばれるものも使用されます。
裏側は革の代わりにゴムや発泡樹脂などが使用されることも多くなっており、これらは牛革に比べると水に強いため、天候を気にせず履くことができます。
雪駄を履くシーン
男性の和装シーンで、カジュアルからフォーマルまで幅広く活躍する雪駄。
特に男性の礼装時は雪駄を合わせるのが通常です。男性が慶事に紋付羽織袴といった正装をしたときは、畳表のもので、かつ鼻緒が白い雪駄を合わせます。
また、畳表がカラス表で茶色い雪駄や、デザイン性がある鼻緒の雪駄はカジュアルなお出かけにぴったり。夏は浴衣に合わせても素敵です。
履きやすさを追求し改良され、今は様々なデザインの雪駄があります。気軽なお出かけに取り入れてみると、ちょっとしたアクセントになっておしゃれですね。
草鞋(わらじ)とは
(画像引用:Amazo.co.jp)
草鞋は他の3つの履物に比べると最も歴史が古いとされ、奈良時代に大陸から伝わった「草を編んで作る履物」がその起源と言われています。
「時代劇で旅人が履いている履物が草鞋」こう言うとイメージしやすいかもしれませんね。
他の履物に比べると足に密着する造りで最も長距離歩行に向いています。一方、耐久性は弱いので、昔の旅人は出発前に何足も草鞋を準備したそうです。
草鞋の形
草鞋には主にひょうたん型と俵型の2種類があります。
ひょうたん型は細身で、履くと足で隠れて紐以外はほぼ見えなくなります。それに対し、やや横幅が広くなっているのが俵型です。
草鞋は足の両脇や後方にひもを通す輪が付いているので、つま先から出ている紐をそれらの輪に通しながら鼻緒部分を作り、足の甲で交差させ、最後に足首で固定します。
足首までしっかり固定する造りで、この点は他の3つの履物と大きく違っています。また、見た感じが似ている「藁草履(わらぞうり)」と混同されがちですが、藁草履は草履の一種で、足首を固定する造りにもなっていません。
草鞋は鼻緒がつま先部分から出ているため、履くと必ず足の指が草鞋からはみ出して地面に付きます。そのまま歩くと怪我をしてしまうので、草鞋を着用する場合は「わらじ掛け足袋」という、草鞋専用の足袋を履きます。わらじ掛け足袋は普通の足袋よりも指の部分が分厚くなっているのですが、これは地面に直接足が触れることを考慮しているためです。
草鞋の素材
草鞋の素材は稲の藁です。
昔は今と違って舗装されている道路はなく、土の上を歩いていたため藁の隙間に土が入って、それがかえって草鞋を補強し、消耗が軽減されていました。
それでもやはり耐久性は強くないので、昔の旅人は三日で一足を履きつぶしたと言われています。履きつぶした草鞋は、肥料として再利用されました。
草鞋を履くシーン
交通が発達していなかったその昔、人々は何日もかけて歩いて移動していました。足にしっかり密着する草鞋は、歩くことが交通手段の1つであった当時、人々に欠かせないものでした。
今では日常の生活でほとんど目にすることはなくなりましたが、夏祭りや地方の伝統行事の際に使用され、雰囲気を盛り上げるのに一役買っています。
また、山登りで沢を渡るときなど、濡れた岩でも草鞋だと滑りにくいことから、山登りの携行品としても利用されています。
まとめ
「下駄」「草履」「雪駄」そして「草鞋」。
これらはいずれも日本の伝統的な履物で、長い歴史の中でそれぞれ少しずつ時代に合わせて変化しながら今に伝えられています。
残念ながら日常生活においては靴が主流となりましたが、それでもこれらの履物の違いを知ることは大変興味深いです。
着物や浴衣と合わせる時のちょっとしたルールを知るだけで、和装の世界がまた一段と広がりますよね。
カジュアルやフォーマルなど、場面に合わせて正しい履物を選んで、和の装いをより深く味わいたいものです。