芭蕉布とは、沖縄や奄美大島で生産されている国の重要無形文化財の一つです。
自然の風合いを残した素朴な味わいは、多くの人を魅了します。また、完成までに多くの時間を有するので、希少価値も高いです。
この記事では、芭蕉布の歴史や生産過程、買取相場などについて解説しています。
芭蕉布とは
芭蕉布とは、沖縄や奄美大島で生産される特産品の一つ。国の重要無形文化財にも登録されている、伝統価値のあるものです。
芭蕉布は、バナナの仲間である植物の繊維を用いて、全ての工程が手作業で行われます。
古くは琉球王国の王族の着物から庶民の普段着に至るまで、幅広く利用されてきた芭蕉布。まとうと、さらりとした涼感を感じられ、夏にぴったりです。
芭蕉布の歴史と産地|沖縄(喜如嘉など)や奄美大島で生産される、国の重要無形文化財
(画像引用:喜如嘉の芭蕉布保存会)
芭蕉布は、500年の歴史があると言われています。琉球王国時代には、庶民の着物だけでなく、王族も身に付けた着物でもありました。
昔は、沖縄のほぼ全域で織られていた芭蕉布。現在は、沖縄県北部に位置する大宜味(おおぎみ)村の喜如嘉(きじょか)が主な産地です。
戦前までは自家製の芭蕉布が各家庭で織られていました。戦時中も、芭蕉布の生産や開発などは行われていましたが、太平洋戦争勃発とともに生産は一時中断し、第二次世界大戦後も、衰退の一途を辿る一方となってしまいます。
しかし、柳宗悦の民藝運動に影響を受け、生産と復興の動きが起こりました。
その甲斐もあり、1972(昭和47)年に県の無形文化財に指定、さらに1974(昭和49)年に国の重要無形文化財に指定されました。
芭蕉布の特徴|風通しがよくハリがあり夏の着物として最適
(画像引用:喜如嘉の芭蕉布保存会)
芭蕉布は素朴な味わいと、さらりとした生地が特徴です。汗をかいても体に張り付くことがないため、多湿な日本の夏の着物として最適でしょう。
また薄くハリがある生地は「トンボの羽」のようと形容されることもあります。しかし、着れば着るほどしなやかさが出てきて、それがまた味にとなるのです。
芭蕉布は当初、無地や縞模様がほとんどでした。
代表的な柄ともされている「ハナアーシ」などの絣模様が取り入れられたのは明治になってから。
現在では、他にも緯絣(よこがすり)の小鳥柄や格子柄、花柄などが織られています。
芭蕉布の素材と生産工程|バナナの仲間である糸芭蕉から丁寧に糸を紡ぐ
芭蕉布の素材は、バナナの仲間である「イトバショウ(糸芭蕉)」の茎から取れた繊維です。一反の芭蕉布を織るために必要なイトバショウは、なんと200本。織り手さんたちによって3年ほどかけて栽培されます。
イトバショウから芭蕉布ができるまでの流れは、以下の通りです。
- 1)苧剥ぎ(うーはぎ)
収穫されたイトバショウの茎の皮を手作業で剥いでいきます。着物に向いているのは、一番内側の柔らかい繊維です。 - 2) 苧炊き(うーたき)
「苧剥ぎ」した皮を、アルカリ性の木灰汁で煮て、繊維を柔らかくしていきます。煮た皮は水洗いの後ざるに入れ水気を切ります。 - 3) 苧引き(うーびき)
柔らかくなった繊維をしごいて、表面の皮をこそげ落とすと、光沢のある繊維が出てきます。柔らかい繊維は横糸に、硬い糸は経糸に仕分け、乾燥させます。 - 4)苧績み(うーうみ)
乾燥させた糸は「チング」にします。「チング」とは、繊維が絡まらないように玉状にしたものです。一本一本の結び目を目立たないように手作業で紡いでいきます。 - 5)撚りかけ・整経
糸を染める前に、糸に撚りをかけます。 - 6)染色
染色には、想思樹や琉球藍が用いられます。模様が入る場合は、糸をイトバショウの葉でしばって模様を浮き立たせます。 - 7)織り
糸は乾燥に弱いため、梅雨の時期が織りに最適な季節と言われています。霧吹きなどで湿気を与えながら織ることで、通年で作業ができます。 - 8)洗濯
仕上がった反物を水洗いした後、アルカリ性の木灰汁で煮ます。次に、酸性の「ユナジ」に浸して中和させます。「ユナジ」とは、米糠を発酵させたものです。この工程により、芭蕉布を丈夫に仕上げます。
イトバショウの栽培から芭蕉布ができるまでの工程は30近く。とても希少価値のあるものだと分かります。
芭蕉布の作家|人間国宝である平良敏子氏が有名
芭蕉布の作家として有名なのは、平良敏子氏(1921〈大正10〉年〜)。
芭蕉布にとって苦しい時代が続いた戦時中、作業の合理化や新商品の開発・研究などを積極的に行い、技術を存続させたほか、織り手としても独自の作風を確立。伝統工芸展などで様々な賞を受賞するなど、国内外で高い評価を受けています。
平良氏は「喜如嘉の芭蕉布」の保持団体「喜如嘉の芭蕉布保存会」の会長を務め、重要無形文化財保持者として1974(昭和49)年に人間国宝となりました。
一切の機械を使わず、郷土の技術と文化がはぐくんだ手織りにこだわる一方で、そのデザインは「風車」や「トンボ」などそれまであった芭蕉布には見られない、自然をモチーフとした楽しいものが数多くあります。
芭蕉布は着物の他にも財布などの小物や座布団が人気
芭蕉布の織り手である平良敏子氏の尽力により、産業向けの商品も多く生産されました。
芭蕉布を使ったクッションや座布団、帯、財布、ポーチなどは人気です。小物や座布団などは、着物に使われる芭蕉の皮とは違い、外側のかたい部分が使われています。
小物類に使われる芭蕉布ならではの控えめで素朴な模様は、落ち着いた気品があります。贈り物にしてもいいですね。
芭蕉布のQ&A
芭蕉布に関するよくある質問を、Q&A方式でまとめています。
Q.芭蕉布の着物や浴衣、帯はいつ着る?
A.暑い季節のおしゃれ着に
芭蕉布の着物は、暑い季節のおしゃれ着として7月~8月に着るのがメインになります。しかし、色の濃いものは、6月や9月に着ても違和感はありません。
特に6月はじめじめとした梅雨の季節。パリとした質感で肌に張り付かず、湿気に強い芭蕉布は最適な着物です。
芭蕉布の着物は存在感があるため、帯との組み合わせに頭を悩ませる人も多いでしょう。同じ沖縄の「琉球紅型」や「琉球絣」と合わせたコーディネートなどは、素材のよさが引き立ってとても素敵ですね。
ちなみに芭蕉布の帯は、着物よりも長期間活躍できます。
名古屋仕立ての帯であれば夏でも涼しく使えますし、柄にもよりますが、単衣の季節はもちろん、5月下旬、10月上旬でも問題ありません。
大島紬に芭蕉布の帯などは憧れのコーディネートの一つですね。
Q.芭蕉布の見分け方は?証紙はどんなもの?
A.麻よりもさらに固い繊維で生地にハリがある。基本的には「喜如嘉の芭蕉布」等と書かれた証紙を確認
芭蕉布を見分ける方法の一つとして、まず、手で感触を確かめてみましょう。同じ植物繊維である麻よりもさらに硬い繊維で、生地にハリのある独特の質感をしています。
さらに、苧績み(うーうみ)した際の節がところどころにあることも、芭蕉布ならではの特徴です。
より確かなのは着物についている証紙を確認すること。喜如嘉の芭蕉布には「喜如嘉の芭蕉布」とシンプルに書かれた紙がはりつけられています。
Q.芭蕉布にはどんな色がある?
A.薄茶のものが一般的ですが、琉球藍で染めた藍色や鮮やかな黄色なども人気
芭蕉布と言えば薄茶に藍色や茶の絣模様が入ったものが一般的。
しかしそれ以外に黄色や赤、深緑などの色が入った「煮綛芭蕉布(にーがしーばしょうふ)」も作られています。
はっとするほど鮮やかな色は、黄色が福木(フクギ)、水色が琉球藍といったように植物由来の染料を用いています。
ただし、染めの施された煮綛芭蕉布は通常の芭蕉布よりさらに劣化しやすいため、大切に着てあげてくださいね。
Q.芭蕉布のお手入れ方法は?自宅で洗うことはできる?
A.自分でのお手入れはなかなか大変。購入したお店に相談するのがおすすめ。保管は乾燥剤は使用せずなるべく湿度のある場所に
芭蕉布は乾燥に弱く繊細なので、自分でお手入れするのは難しいですが、不可能というわけではありません。
着用後は干してシワのできた個所に霧吹きで水をかけ、おして戻すと皺が取れます。保管の際は乾燥剤は使用せず、なるべく湿度のある場所に保管するのがポイント。一番は「着てあげる」ことなのでしまい込まずに着用しましょう。
洗う場合は、上質な石鹸を用いて押し洗いをします。石鹸を流ししたら、赤味をおさえるために酢を少したらして再度水洗いを行いましょう。
難しいのは乾かす段階。陰干しで完全に乾ききる前に取り込み、縮んだ分を広げて元に戻します。その後ござににくるんでおしをし、蒸気アイロンで仕上げをすれば完了です。
しばらく着た芭蕉布は「ユナジ」という粥を発酵させたものに漬けておくと着心地が良くなりますが、高級な芭蕉布を自宅で手入れするというのはかなり勇気がいります。まずは、購入したお店に相談するのが、安全でおすすめです。
芭蕉布の買取相場の目安
芭蕉布は貴重なので、値段はつきやすいです。しかし、保存状態・作家・証紙の有無によって、買取相場が大幅に変わってきます。
買取相場の目安は以下の通りです。
芭蕉布の買取相場
- 芭蕉布(通常のもの):40,000円〜80,000円
- 芭蕉布(平良敏子氏作品):100,000円〜350,000円
人間国宝である平良敏子氏の作品は有名で、中古着物市場で見かけることはあまりありません。そのため、高く値段が付けられる場合が多いです。
ただし芭蕉布は乾燥に弱く、劣化が進みやすい織物。きちんと保管されていなかったものはいくら芭蕉布でも数百円や数千円と価値が下がったり、買い取ってもらえないこともあるので注意しましょう。
芭蕉布の着物や帯が高価買取されるポイント
夏の高級着物「芭蕉布」。せっかくならできるだけ高く買取してほしいですよね。
高価買取へと近づけるポイントは以下の4点。
- サイズは大きいものの方が高く売れやすい
- シミや汚れ、生地の傷みがなく保存状態がいいほど価値が高い
- 証紙、落款など着物の価値を証明する付属品は必ず見せる
- 専門の買取業者に見てもらうのが何より大事
知らないと大損する可能性もあるので、買取に出す前にしっかりと確認しましょう。
サイズは大きいものの方が高く売れやすい
着物のサイズについては、大きいものの方が高価買取されます。
というのも着物は着る人に合わせて仕立て直すことが一般的なもの。
大きいものを小さくすることは割と簡単にできる上、おはしょりなどで調節も可能ですが、逆に着物が小さい場合は、縫い代部分に生地が余っていないと広げて大きくすることは難しくなってしまいます。
大きいものの方が融通が利く分買い手が付きやすいので、高価買取が期待できます。
シミや汚れがなく保存状態がいいほど価値が高い。生地弱りもチェック
シミや汚れは当然のことながら査定価格に影響が出ます。
よっぽどひどい状態でなければ、買取不可とはなりませんが、芭蕉布のお手入れは大変なので、できれば購入した呉服店などで予めクリーニングをしておくのがいいでしょう。
さらに、芭蕉布は植物繊維からつくられているため、乾燥に弱い性質があります。
絹の着物と一緒に乾燥剤を入れて保存してしまうと、生地が弱って繊維が切れてしまうので要注意。
シワは霧吹きなどで濡らして丁寧に伸ばせば取れるので、査定前に手入れをしておくのを忘れずに。
証紙、落款など着物の産地や価値を証明する付属品は必ず見せる
(画像引用:宮古島市伝統工芸品センター)
証紙や落款は高価買取のキーポイント。
証紙とは、簡単にいうと品質証明書のようなものです。着物の素材や産地、織り方、染め方などが記載され、「この着物は高級品である」と保証してくれます。
芭蕉布であれば、「沖縄県織物検査済之証」や、「喜如嘉の芭蕉布」と書かれた証紙が布に張り付けられています。
証紙が付属している場合は、大切に保管し査定時は必ず提出しましょう。
また、落款とは、着物作家のロゴマークのようなものです。着物作家には独自の落款(ロゴマーク)を持っている場合があり、着物を手がけた際に「自分が仕立てたものである」と証明するために刻印します。
有名な作家であればその価値を証明することができ、類似品と見分けることもできます。落款はおくみか襟先にあることが多いです。
平良敏子氏の作品であれば、証紙に割り印のような形で「平良」と押されているので確認してみましょう。
専門の買取業者に見てもらうのが何より大事。できれば複数の業者に見積もりを
着物を売る方法はいくつありますが、高額買取されやすいのはやはり専門の買取業者です。着物専門の査定士は、実績も豊富なので大切な着物を正しく評価してくれ、安く買いたたかれてしまう心配がありません。
買取業者に依頼したい場合、インターネットや電話での査定依頼が簡単です。査定は自宅や店頭宅配などの種類があるので、予定に合わせて選ぶこともできます。
査定価格に同意すれば、その場で買い取ってもらえるので手間もなし。もし買取価格に納得できなくても、査定自体は無料なので損になることはありません。
またできれば一社ではなく複数の業者に査定を依頼するのも、より高く買い取ってもらえるポイントになります。
まとめ
着物好きなら誰もが憧れるであろう芭蕉布。年間130反ともいわれるその希少性から、反物や小物はともかく着物を着用している人はなかなか見掛けなくなってしまいました。
さらに芭蕉布は乾燥の経年に弱いため、着ずにしまいこんでしまうと劣化が早まってしまいます。
時間をかけて作られたせっかくの芭蕉布が、日の目を浴びないというのは、もったいないこと。
もし着る機会がないという場合は、思い切って次に大切にしてくれる方へ引き渡すのも一つの手です。