結婚式などで見かける着物の「紋」。
みなさん見たことはあると思いますが、意味や使い方など詳しく知っていますか?
フォーマルな場に着物を着る場合は、「紋」の知識は必須です。
この記事では、「紋」に関する基本的な知識と格について、ご紹介します。
着物の「紋」とは
着物の「紋」とは、基本的に着物に入れる家紋のことを意味します。
古来は貴族が物に入れることで自分の所有物であることを示し、戦国時代には武将の旗印として使われてきました。真田幸村の「六文銭」や武田信玄の「四割菱」という家紋などが有名ですね。
明治時代以降、紋は家族を表すものとして庶民にも流通し、フォーマルな着物に入れられるようになりました。
家紋には、草花や道具、幾何学模様などがデザインされ、実に多くの種類があります。現在使用されているものだけでも250~400種類あると言われ、家紋の歴史をさかのぼれば1万種類を超えるとも。
そして、着物に紋を入れる際には、個数や入れ方、形などによって格が決まるので、着用シーンに留意しなければなりません。
地域や家によってもルールが異なることがありますが、まずは基本をしっかりと押さえましょう。
紋の個数と格について
まずは、紋の個数によって格がどう変化するのかを知りましょう。
紋の個数は、5個(五つ紋)、3個(三つ紋)、1個(一つ紋)、0個(紋なし)とあり、数が多いほど格が高くなります。
五つ紋
五つ紋とは、背中の中心(背紋)、両袖の後ろ(袖紋)、両胸(抱き紋)の五カ所にある紋のことです。
紋は、数が多いほど格が高いので、数においては五つ紋が最高の格ということになります。
男性の場合、紋付袴と呼ばれる正式礼装には、必ず五つ紋。新郎のお色直しの色紋付にも五つ紋が入ります。
女性の場合、親族の正式喪服と黒留袖は必ず五つ紋。ほかに色留袖にも五つ紋を入れることができます。五つ紋の色留袖は、五つ紋という格の高さによって黒留袖と同等の格へと引き上げられるのです。
抱き紋が入るのは五つ紋の場合だけなので、両胸に紋があれば正式礼装ということがわかりますね。
三つ紋
三つ紋とは、背紋と袖紋の三カ所にある紋のことです。
五つ紋を省略したもので、格は下がり、略式礼装となります。
男性の場合は色紋付やお召に、女性の場合は色留袖に付けて、結婚式や格式のあるパーティにも参加できます。
訪問着や附下は、ほとんどの場合で袖紋の位置に柄があるため、三つ紋はあまり入れられません。
一つ紋
一つ紋とは、背紋の一カ所のみにある紋のことです。紋の数では、最も低い格となります。
男性のお召や、女性の訪問着や色無地によく付けられます。小紋でも、江戸小紋など格調のあるものには一つ紋を付けることも可能です。
友人の結婚式やお茶会など、ちょっとフォーマル感を出したいシーンで着るのにふさわしいでしょう。
格は低いですが、幅広い場面で着用できるので使い勝手がよいですね。
自分の家紋以外の紋を着ることも
紋は、基本的に自分の家の家紋を付けますが、それ以外の紋を付けることもあります。
たとえば女紋。
女紋とは、母親から娘に、そして孫娘に…といったように女性間で代々受け継がれていく家紋のことです。結婚して家が変わっても、ずっと持ち続けられる紋なのです。嫁入り道具としての着物に、嫁ぎ先の家紋ではなく女紋を入れるケースも珍しくありません。
他にも、通し紋というものもあります。
これは、誰が付けても良いとされる紋です。自分の家紋がわからない人が付けたり、レンタル着物に付いていることが多いですね。代表的な家紋には、五三の桐、桔梗、三つ柏などがあります。
五山の桐 | 桔梗 | 三つ柏 |
(画像引用:rakute.ne.jp)
そして、ファッションとしてのしゃれ紋。
着物のおしゃれとして、好きな柄や形、大きさを楽しめます。
しゃれ紋を入れることで自分だけのオリジナルの着物になるので、おしゃれ好きの間で高い人気を博しています。
着物の紋の種類と格
さらに紋には、入れ方や形にも多くの種類があります。
同じ家紋でも、紋の入れ方や形によって印象はもちろん、格や着用シーンが異なるのです。
パッと見ただけではわからないので、あらかじめ知識を持っておくと良いでしょう。
紋の入れ方の種類
着物の紋の入れ方の種類は三種類。染め抜き、縫い、貼りがあります。一つずつ詳しく見ていきましょう。
染め抜き紋
染め抜き紋とは、家紋を白く染め抜く入れ方です。
白生地などを染める際に、紋の部分が染まらないように白く残し、中に柄を描き入れる高度な技法です。
紋の入れ方の中では最高の格を持ち合わせているので、紋付き袴や黒留袖などの正式礼装の紋は必ず染め抜き紋で入れられます。
紋がくっきりと表れ、遠目にもわかりやすいのが特徴です。
縫い紋
縫い紋とは、糸で縫って家紋を表現する入れ方です。
染め抜き紋よりは格が下がり、一般的には三つ紋・一つ紋に用いられ、略式礼装やおしゃれ着になります。
着物の色と合わせて糸の色を選べるので、色鮮やかにできるのも特徴です。特に、金や銀の糸は気品があり、華やかな場に人気です。
また、縫い方の技法もいくつかあります。
縫い方参考 | 説明 |
けし縫い | 針目と針目の間隔が等間隔に なるように縫う。より線を強調 するとまつり縫いとなる。 |
蛇腹縫い | 撚りの強い糸で糸目を粗く 斜めにかがる。 ミシン刺繍と同様。 |
さがら縫い | 表に糸の玉結びを 作りながら縫う。 立体的な仕上がりになる。 |
すが縫い | 生地の織り目に合わせて 縫い目を横に流す縫い方。 |
(画像引用:新家庭百科第七巻)
一般的なまつり縫い、ふっくらとした菅(すが)縫い、さりげない芥子(けし)縫い、玉結びで縁取ったような相良(さがら)縫いなど。縫い方によって出したい雰囲気を選べますね。
貼り紋(シール)
貼り紋とは、着物と同じ素材の生地に紋をあらかじめ染めておいて、後から張り付ける紋の入れ方です。
紋を入れる際に着物の地色が抜けにくい場合や、多くの人が着るレンタル着物に用いられています。
貼り付け方には、縫いつけてあるものから、ワッペンのようにアイロンで貼り付けるもの、シール状で簡単に着脱できるものまであります。
安価で簡単な紋の入れ方で、格は最も低いです。
着物に一つ紋を入れる場合、縫い紋だと業者で8000円以上するのに対し、貼り紋は通販サイトで2000円程度、複数枚の家紋シールを購入できるでしょう。貼り付けもシールを貼るだけなので自宅でできます。
紋の形の種類
紋の形もいろいろ。ここでは、代表的な紋の形の種類を紹介します。
日なた紋
日なた紋とは、家紋全体を染め抜きや縫いなどで表現した形です。陽紋、表紋とも呼ばれます。
紋の形の中では最も格が高く、正式なものとされています。
紋の入れ方で最も格の高い染め抜き紋と合わせて「染め抜き日なた紋」は特に格が高く、正式礼装には必ず「染め抜き日なた紋」です。
紋がはっきりとしているのが特徴です。
陰紋
陰紋とは、家紋の輪郭線のみを染め抜きや縫いなどで表現した形です。日なた紋(陽紋、表紋)に対し、陰紋、裏紋とも呼ばれています。
細い輪郭線が繊細な美しさを演出しますが、日なた紋の略式という扱いで、格は下。
そのため、略式礼装に使われることが多く、色無地に入れればお茶会や友人の結婚式などに参加できます。
また、分家が本家に配慮して家紋を陰紋にしたり、目立ちすぎず控えめにしたい場合に陰紋にしたりすることが多いようです。
くずし紋(のぞき紋)
くずし紋とは、正式な家紋をアレンジしたものです。
中でも、丸の中で紋が半分だけ顔を出したのぞき紋は、全部ではなく少しだけ見えるという小粋な紋で、江戸時代には大流行しました。
地抜き紋
地抜き紋とは、地色を染め残すことで家紋を表したものです。
主に白地の着物に用いられ、日なた紋とは地色と染が反転します。
薄い色の着物に用いられることが多いようです。
加賀紋
加賀紋とは、加賀友禅のように際立って美しい色合いの紋で、江戸時代に加賀(石川県)で発祥しました。
彩色していない家紋を囲むように、色とりどりの草花が描かれているのが特徴です。
小さな紋の中に描かれているので、上品な華やかさがあります。
しゃれ紋/だて紋
着物の装飾を目的とした紋をしゃれ紋といいます。
だて紋は、花や鳥や文字などをモチーフ化して紋の位置にいれた紋で、家紋ではありません。
細かなルールはなく、紋の大きさや形も自由です。
デザイン性に富んでいて、着物のファッションとして楽しめます。
着物の紋の扱い方
紋入りの着物を着るにあたり、紋の大きさや位置、お手入れ方法について説明します。
紋の大きさ|男女ともに細かい決まりはなし
紋の大きさは、細かい決まりはありませんが、だいたい直径2~4㎝です。
男性の紋は直径3.5㎝、女性の紋は直径2㎝程度が一般的です。
また、地域によっても大きさが異なる場合もあるので、事前に確認した方が無難でしょう。その場にいる人の中で、浮かない大きさであれば問題ありません。
紋の位置|袖紋、背紋、抱き紋
紋を入れる位置には、厳密な決まりはありませんが、だいたいの基準をご紹介します。
背紋は、必ず背中心にあり、衿元から約6cm下。
袖紋は、袖の後面にあり、肩山から約7.5㎝下で袖口から約7㎝中心側。
抱き紋は、胸のやや上。
また、訪問着など柄がある着物の場合は、柄に被らないように紋を入れます。
紋の手入れ|紋を洗う、紋を消す
紋洗いは、紋が汚れたり黄ばんだりした場合や、水に濡れてにじんでしまった場合に行います。
薬剤を使って紋を漂白洗浄した上で、改めて紋を入れ直し、きれいな紋に再生します。
紋消しは、もらった着物に付いていた紋を消したい場合や、紋を減らすことで格を下げて着用機会を増やしたい場合に行うことが多いですね。
紋に使われていた墨を落とし、着物の色に合わせた色を塗って紋を消します。工程は簡単に思えますが、完全に消すには色合わせや塗り方に高度な技術が必要です。
まとめ|フォーマルシーンでは紋のマナーを守りましょう
紋には個数により格や位置、入れ方など細かいルールやマナーがあります。
特にフォーマルシーンでは、このルールを把握し、適切な着物に適切な紋を付けて着こなすことが重要になります。
ポイントをおさえて、いつでも正しく着物を着られるようになりたいですね。