「暑い日に着物なんてムリ」「真夏は過ぎたけど、着物を着るには暑い…」
暑い季節には、汗をかいてしまうことや暑くて苦しくなることが心配で、着物を着るのをためらってしまいますよね。
それでも、着物を楽しみたいと思うのが着物好きさんの本音でしょう。
今回は、暑くても着物を快適に着こなす、暑さ対策を余すところなく紹介します。
ちょっとした工夫で、誰でも簡単に取り入れられるので、ぜひ試してみてくださいね。
着物は暑いって本当?
人間の肌表面は31~33℃前後の温度が保たれていると快適に感じるようになっています。
しかし日本の夏と言えば連日30℃越えが続くもの。東京都の最高気温は、盛りの過ぎた9月中旬でも33℃となることがあります。
そんな暑い季節はできるだけ薄着でいたいものですが、着物とは重ね着をして着る衣類です。少なくとも、肌襦袢・長襦袢・着物・帯の4枚の布を身体に巻き付けますよね。さらに腰ひもや伊達締めも使うので、季節によってはどうしても暑く感じてしまうでしょう。
しかし、素材をうまく選んだり、着付けの工夫によっては涼しく着ることができるのです。早速紹介していきましょう。
着物の暑さ対策のポイントとおすすめグッズ
それでは、着物をできるだけ涼しく着こなすにはどうしたらよいか、具体的な着物の暑さ対策とおすすめ商品をご紹介します。
着物や着付け小物の工夫
一口に着物といっても、種類はさまざま。洋服同様、通気性のいい涼しいものから、冬用のあたたかなものまで色々あります。
その他にも着付け時に使う小物類も夏用のものを合わせれば、蒸れることなく快適に着られます。
- 絽・紗・麻など涼しい素材の着物を選ぶ
- 帯板や帯枕もメッシュやへちまなどムレを防止できるものを
- 肌着や腰ひもを麻素材に
絽・紗・麻など涼しい素材の着物や襦袢を選ぶ
まず暑さ対策で重要なのは当然着物の選び方。
薄物や夏物とも呼ばれる絽・紗の着物や麻素材の着物を選びましょう。
絽や紗の着物は、生地に目があくように織られているため通気性が良く、透け感もあって見た目にも涼し気な着物です。一般的に、絽は等間隔に目が開いており、紗は全体的に目があいています。紗の方がより涼しく感じるでしょう。
麻の着物は、ハリがあり肌に張り付きにくいため、暑い季節でも快適に着ることができます。
ただし、夏物は原則として7月8月に着用する着物。9月や6月の本来単衣を着る時期に着用する場合は色や柄、透け感に気を付けて選ぶといいですね(月ごとの装いんいついて詳しくは後述します)。
着物の他に長襦袢の素材も麻や綿麻のものを着ると、なお涼しく過ごせます。
夏物を着るのに微妙な時期は、まず中の襦袢を涼しい素材にすると、目立たないのでおすすめです。
暑さ対策おすすめグッズ
肌襦袢と長襦袢を兼ねた夏のイチ押しグッズ。
麻の長襦袢はシワになりやすいのがデメリットですが、こちらは麻15%綿85%の綿麻なのでシワになりづらいのが嬉しいポイント。汗をかくとひんやりするキシリトール加工で夏でも快適に着物で過ごせますよ。
帯板や帯枕もメッシュやへちまなどムレを防止できるものを
最も汗をかきやすいのが帯まわり。
帯まわりは、長襦袢や着物だけでなく帯で二重三重になっており、さらに腰紐やおはしょりでさらに分厚くなっている部分です。それだけ重ねれば暑いに決まっています。
そこで、この最も布が重なっている部分をなんとか涼しくするためには、帯まわりの小物を工夫するのがいいでしょう。
特におすすめなのが天然素材のへちまの帯板や帯枕。
へちまの形状からわかるようにムレにくいことや、軽くて付けているのを忘れるほどの着心地の良さがポイントです。
暑さ対策おすすめグッズ
さわやかな着け心地と評判の井登実のへちま小物。
帯板にはベルト付きのものもあり、装着も簡単です。創業100年を超える老舗の商品なので安心感もありますね。
肌着や腰ひもを麻素材に
肌襦袢は肌に直接触れる部分が多いので、肌触りにはこだわりましょう。
ハリのある麻素材や表面がポコポコした楊柳のものは、肌に張り付きにくいのでおすすめです。
綿や麻といった自然素材は汗をよく吸ってくれるので夏の肌襦袢にぴったりです。逆にポリエステルなどの化繊は汗を吸いにくいので暑く感じてしまいます。
また、肌襦袢を省略すると下着が透けてしまったり着物に汗シミが付く恐れがあるので、暑くても肌襦袢は必ず着るようにしてくださいね。
腰ひもも1回の着付けで3~4本は使うので、できるだけ涼しくなる素材を選びたいところですね。腰ひもは通気性の良い麻素材のものや、メッシュの腰ひもベルトなどがおすすめです。
暑さ対策おすすめグッズ
本麻かつ楊柳という、涼しさMAXの素材使いの腰ひもです。さらに麻はすべりにくいのでしっかり締まって安定した着付けができます。
涼しさと着付けの機能性を兼ね備えた腰ひも、ぜひ試してみてくださいね。
着付け時の工夫
いくら着物や小物を揃えても、肝心の着付け時に暑いまま着物を着てしまうと、後々までじめじめとした不快感が続いてしまいます。
なるべく湿気や汗を閉じ込めないように一工夫しましょう。
- 着付け時には冷房を効かせてうんと涼しく
- ベビーパウダーやデオドラントスプレーや冷感ウエットティッシュで汗予防
- 補正は暑さ対策にもなるので省略しない
- しっかり着付けできたら、伊達締めを抜くという方法も
着付け時には冷房を効かせてうんと涼しく
着物は外出時はもちろんのこと、着付け時にも結構汗をかいてしまうもの。特に初心者の方や自分サイズでない着物の場合は、着付けに時間がかかるので汗をかきやすいです。
そんな着付け時の暑さ対策は、冷房をいつもより強めに効かせることがポイント。汗をかいたまま着付けをすると、着物の中に汗がこもったり、汗によるじめじめ感でさらに体温が上がりやすくなったりしてしまいます。
また、時間ギリギリで急いでいる場合も汗をかきやすいです。素早く動くことでかく汗と、焦りという心理的な要因でかく汗の両方が発生してしまいます。心理的要因の汗はニオイが強いのでできるだけ避けたいところ。
時間には余裕を持って着付けをしましょう。
ベビーパウダーやデオドラントスプレーや冷感ウエットティッシュで汗予防
汗をかく前の汗予防も効果的です。
着物を着る前に、ベビーパウダーやデオドラントスプレーでを首や脇、腰まわりなどをにあらかじめ付けておきましょう。
汗をかいても吸収してくれるので快適な素肌を保つことができます。消臭効果があるのも嬉しいポイントです。
補正は暑さ対策にもなるので省略しない
身体にタオルなどをあてる補正。暑いとなるべく布を減らすため、補正をしない方がいいのではと思いがちですが実は逆。補正には身体の凹凸をなくすだけでなく、汗を吸収するという役割もあるのです。
補正を省略すると汗が吸収されず、かえってベタベタとした不快感が生じてしまいます。それでも補正は暑そう…と抵抗がある場合は、夏用の補正グッズを使うのがいいでしょう。
ブラと補正を兼ねた商品なので、着る布を減らすことができます。さらに放湿性と放熱性の高い麻わたを使用しているので涼しく着られるでしょう。
しっかり着付けできたら、伊達締めを抜くという方法も
着付け時の工夫の基本は「減らせる紐や布は極力減らす」という考えです。
着付けが安定してできる場合や、ちょっと外出といったカジュアルシーンの場合は、伊達締めを省略するという方法も可能です。
ただしフォーマルシーンでは、着崩れが心配なので伊達締めは省略しない方が安心でしょう。
持ち物の工夫
どんなに万全に対策をしても照り付ける日差しや、アスファルトからの照り返しは厳しいもの。
体温を下げるひんやりグッズなど持ち物も考えてみましょう。
- 保冷剤を仕込むと爽快感アップ。持ち歩き用もあるとなお良し
- 扇子や日傘やショールでオシャレに暑さ対策
保冷剤を仕込むと爽快感アップ。持ち歩き用もあるとなお良し
暑くてたまらない真夏日には、保冷剤を着物に仕込んでひんやり涼しく過ごすことができます。
仕込む場所は、脇下の肌着と長襦袢の間。脇の身八ツ口を開いて肌着と長襦袢の間、帯に対して上から下へ入れ込みます。半分くらい入れ込んだ後身八ツ口を閉じれば、外からは保冷剤が仕込まれていることは全くわからなくなりますよ。
また、持ち歩き用の保冷剤も、外出時には持参すると良いでしょう。
首を冷やして全身を涼しくしたり、ほてった部位を冷やして日焼け対策をしたりして、大いに役立ちます。
首や脇まわりには太い血管が通っているので、ここを冷やせば全身の熱が下がり、爽快感がアップ。効率的に涼を取りましょう。
暑さ対策おすすめグッズ
扇子や日傘やショールでオシャレに暑さ対策
かわいい小物を使って、暑さ対策でもオシャレを楽しみましょう。お気に入りの扇子や日傘を使えば、気分も上がって多少の暑さがまぎれそうですよね。
もちろん、気分だけでなく実用的な暑さ対策にもなります。
扇子であおぐ時には、袖口から脇へ風を送るのが効果的。あとは、うなじに風を当てると全身の熱が下がりやすくなります。
ただし強くあおいだり、手をあげて高い位置であおいだりすると、美しい所作とはいえません。
さらに扇子の中でも留袖などを着たときに持つ末広に関しては、儀礼的なものであり、涼むためのものではありません。間違っても広げてあおがないよう注意しましょう。
日傘をさす時には、柄を短く持ち、できるだけ顔の近くに傘がくるようにするのがおすすめ。しっかりと首まわりを隠すことで体温の上昇をやわらげることができます。
ショールを使う時には、衿元のうなじを隠すようにかけましょう。ただし、訪問先では外すのがルールなので、忘れないように注意してください。
【月別】暑い日の着物や帯の選び方
着物は10~5月が袷、6月と9月が単衣と着用する着物がだいたい決まっており、夏物は7月~8月の間に着るものというが一般的な考え方です。
しかし近年は、7月と8月以外でも暑い日が続くことが多くなってしまいました。
そのため、6月や9月の暑い日に果たして夏物を着ていいものなのか、まだ5月だけれど単衣をきても変ではないかなど、悩みは尽きないですよね。
そこで初夏や初秋といった微妙な時期には、どのような装いが良いのかを月ごとに紹介します。コーディネートの参考にしてください。
※地域によって気温に差があるため、上旬や下旬と言った表記はあくまで参考程度に考えてください
5月|無理して袷を着る必要はなし!暑ければ単衣を着ちゃいましょう
- 基本は袷の着物
- 暑い日は単衣でもOK
- 帯は袷用(九寸)か場合によっては単衣用(八寸)も可
- 襦袢は単衣の無双袖。暑い日は単衣袖で調節
5月はゴールデンウイークを過ぎると一気に気温があがり、袷だと外出するには暑く感じる時期です。
5月は袷の季節ですが、暑い日は無理をせずに単衣を来てもOK。このときの帯は、夏物や単衣用の帯ではなく、基本的に袷に合わせる帯を使いましょう。アジサイや吉祥文様の葵など、春~初夏の草花模様が入っていると季節感が出ます。
全体として白や黄緑など淡い色で整えるとさわやかで素敵ですよ。
6月|カジュアルな場なら夏日には絽でもOK
- 基本は単衣の着物
- 暑い日は夏物でもOK
- 帯も着物に合わせ単衣~夏物を使い分ける。まずは絽・紗から、下旬は羅・麻も可能
- 襦袢は単衣袖。暑い日は夏物で調節
- 半衿の絽ちりめん・絽の使いどき!
気温の上昇とともに、6月中旬には梅雨に入りじめじめとする季節です。
6月は単衣の季節ですが、カジュアルな場なら夏日には絽の着物を選ぶと良いでしょう。その場合帯も夏物で可。
薄い黄色や黄緑などシャーベットカラーの着物に加えて、帯や小物には鮮やかな青や緑を差し色に使えば、清涼感のある装いになりますね。
レースの帯締めなどは7~8月用ですが、最近では6月中旬当たりから使い始める人もいます。
カジュアルな場では決まりごとよりも自分の体感や体調を優先して、快適に過ごせるものを選んでくださいね。
フォーマル寄りな場で、6月なのに夏物を着るのはちょっと…という場合は襦袢を涼しいものにしてみたり、夏物でも網目の細かい透け感の少ないものを選ぶなど工夫するといいでしょう。
9月|残暑が厳しければ透け感の少ない絽
- 基本は単衣の着物
- 上旬ころまでは秋色の夏物ならOK
- 帯は単衣用(八寸)。上旬までは絽も可
- 襦袢は単衣袖。暑い日は絽や麻素材のもので調節
- 絽の半衿は中旬あたりまでが目安。絽縮緬や塩瀬に切り替え
ここ何年も、まだまだ残暑が厳しい9月が定着してきましたよね。
9月は単衣の季節ですが、暑い日には透け感の少ない夏物を着られます。一般的に紗より絽の方が透け感が少ないので、絽の着物がおすすめです。
特に縞模様や小紋の絽だと、さらに透け感が目立ちにくいので9月の暑い日には重宝しますよ。
ただし基本的に着物は季節を先取りするもの。
そのため同じ単衣の季節である6月に夏物を着ていてもそこまで違和感は大きくないですが、9月にシャーベットカラーの薄物を着ているとやはりおや?と思われることが多くなってしまいます。
色柄選びは慎重に、できれば秋めいた暖色やトーンの控えめなものがいいでしょう。
また着物が夏物の分、帯はボルドーやモスグリーンで秋らしさを取り入れるのがおすすめ。金木犀や落ち葉の柄の帯も◎実用性と季節をふまえた粋な装いになりますね。
10月|初旬なら単衣でも。ただし色柄には要注意
- 基本は袷の着物
- 暑い日は単衣でもOK
- 帯は袷用(九寸)。上旬あたりまで単衣用(八寸)も可
- 襦袢は単衣の無双袖。暑い日は単衣袖で調節
秋の気配を感じられる10月でも、日によっては暑い日もありますね。
10月は袷の季節ですが、初旬までなら単衣でもOKです。
ただし、色は明るい色ではなく紺や深緑などの重厚感のある色を選びましょう。一方で帯はオレンジや黄色など淡い秋色を合わせると、季節の移ろいを表すコーディネートとなり素敵ですね。
絵柄には、もみじや菊などを取り入れると季節に合うでしょう。10月の単衣でも、色柄を工夫して季節を先取りするとオシャレに見えますよ。
まとめ|現代の気温に合わせた無理のない暑さ対策を
年々、気温が上昇している中、昔からのルールを守り通すには無理があります。
普段着であれば、自分の快適さを優先しても誰にも迷惑はかかりません。5月だから絶対袷を着なきゃと固く考えずに、その日の気温や天候、外出先次第で柔軟に着物を選びましょう。
ぜひ、自分の体感に合わせた着物コーディネートで快適に着物を楽しんでください。