着物をたしなむ上で、避けては通れないのが「格」。
男女ともに着物には着るシーンに合わせて格があります。せっかく着物を着るのですから、場をわきまえた装いで、堂々と着物を着こなしたいですよね。
男性の格にはどういったものがあるのか、女性の場合とはどのように違うのか、この記事では男性の着物の格についてまとめました。
格をふまえて、よりかっこよく着物を楽しみましょう。
男性の着物にも「格」がある
着物の格とは、TPOにあわせた着こなしのルールです。
たとえば、結婚式やお葬式などの儀式に普段着では参列しないですよね。着物を着るときは、その場の種類や参列する立場にあわせた格のものを着る必要があるのです。ふさわしい格の着物で参列することで、主催者や主役への敬意や感謝の気持ちを表せます。
女性の場合は、留袖や附下、振袖といった着物の種類も多く、未婚か既婚かで着物が異なるなど細かいルールがあるので、難しく感じる方も多いことでしょう。
男性の場合も、格のルールは存在します。ただし女性ほど着物の種類も多くなく、細かいルールはありませんが、場にあわせた着物選びは礼儀として重要です。
格の 高さ |
着物 | 着用シーン例 | |
礼装 | 高 | 黒羽二重 五つ紋付き |
結婚式(花婿/仲人/父親/親族) 成人式 葬式 |
準礼装/ 略礼装 |
高 | 色紋付/ お召し(紋付) |
結婚式(招待客) 成人式 パーティーやお茶会 |
外出着/ おしゃれ着 |
中 | 紬/ お召し |
訪問時や食事会、観劇などは 袴と羽織を合わせる 着流しの場合は普段着 |
普段着 | 低 | ウール /上布 |
カフェや散歩などの 街着、くつろぎ着 |
格の高い順に、礼装、外出着・おしゃれ着、普段着と大きく三つあるので、まずはこの三種類の特徴を押さえましょう。
男性の礼装
男性の礼装は、着物に「紋付羽織+袴」を着用することが基本スタイルです。
礼装には正式礼装と略式礼装があります。親族の冠婚葬祭や格式ある式典には正式礼装、友人の結婚式や成人式などには略式礼装といったように、着用シーンによって礼装の種類も変わります。
ここでは、礼装について特徴や着用シーンなど詳しくご紹介します。
正式礼装|黒羽二重五つ紋付
男性の第一礼装は、年齢に関わらず、黒羽二重五つ紋付です。
黒無地の着物と羽織に、縞柄の袴を履き、羽織紐と足袋は白を使用するのが一般的。着物と羽織には、背中、両胸、両袖の後ろの五カ所に、紋の入れ方で最も格式が高い「染め抜き日向紋」を入れます。
素材は羽二重というやわらかく光沢のある正絹の生地が使われており、高級感のある質感です。
慶事では、結婚式の新郎や新郎新婦の父親、そして仲人が着ることが多いですね。また、親族の葬儀や告別式といった弔事にも着用できます。その場合は、羽織紐や半襟は黒かグレーにしましょう。
略式礼装|色紋付
略式礼装のひとつである色紋付とは、黒以外の紋付着物と羽織、袴のことです。
紋の数は、一つ紋、三つ紋、五つ紋があり、紋の数が多いほど格が高くなります。
生地には、羽二重だけでなく、なめらかでツヤのある紋綸子やふんわりとしたちりめんが使われることも。
結婚式の一般ゲストとして参列する際は、紺・グレー・茶色などの落ち着いた色無地がふさわしい装いでしょう。全体として落ち着いた雰囲気であれば、羽織紐や帯は着物にあわせて好きな色のものを使えます。
紋は一つ以上あれば問題ありません。ただし、男性の和装は花婿と間違えられてしまう場合があるため、着用する場合は新郎新婦に一度確認をしておいた方がいいでしょう。
五つ紋であれば、新郎のお色直しの和装としても着用できます。その場合は、格や色を花嫁に合わせてくださいね。
成人式へ出席するときは、特に厳しい決まりごとはありません。近年は赤や青といった色柄のバリエーションもかなり豊富になってきており、幅広く色紋付を楽しめることが成人式ならではの醍醐味ですね。
略式礼装|お召(紋付)
お召とは、お召ちりめんの略で、ちりめんの中でも高級品です。
他のちりめんは「後練り後染め」に対し、お召ちりめんは「先練り先染め」という方法で作られており、その軽くてしなやかな質感は古くから人々に好まれています。
江戸幕府11代将軍の徳川家斉が特に気に入ってお召しになっていたことから「お召」という名前が付き、高級品として庶民の間にも定着しました。
最大の特徴は、織りの着物にも関わらず格が高いこと。一般的に、織りの着物は染めの着物よりも格が低いとされていますが、お召は例外で、紋を付けることで略式礼装として着用することが可能です。
紋は染め抜き日なた紋が最も格が高いとされていますが、お召しの場合は縫い紋を一つ付けるか、羽織のみに紋を付け、袴を合わせれば、茶席やパーティなどフォーマルな場にも着用して参加することができます。
男性の外出着、おしゃれ着
外出着・おしゃれ着は、「着物+羽織」が基本スタイルです。
洋装でいうとスーツと同じくらいのきちんと感がありますが、堅苦しく考える必要はなく、好みの色やコーディネートを楽しめます。
気軽なパーティーや同窓会、新年会など、ちょっとおしゃれをしたいシーンに最適です。
羽織を着用しない場合はさらにカジュアルになり街歩きや友人との食事会に、袴を履く場合はさらにフォーマルになり少し改まった場にふさわしくなるでしょう。
紬
紬とは、紬糸から作られた織りの着物のことです。
蚕の繭をつぶして真綿から紡ぎだした糸を紬糸といい、紬糸を染めて平織りしたものが紬の生地です。紬の生地は、糸によりをかけているため耐久性が高く、見た目には鈍い光沢を持ち、ざっくりとした肌触りで独特の風合いを感じられます。
初めはかっちりとした硬い生地ですが、着なれていくと柔らかくなじんできます。革製品と似ていますね。この特徴は着物愛好家にはたまらないようで、現代でも幅広く高い人気を誇っています。
紬は歴史的に、商品にならない残ったくず繭から紬糸を取り出し家族用の着物を作ったり、丈夫で長持ちするからと日常生活でよく着用されてきました。そのため、紬は日常の着物であって晴れ着や礼装にはふさわしくないとされてきました。
この慣習は、現代における格にも受け継がれています。紬は、基本的に結婚式や儀式をはじめとする公式な場には着用しないのが一般的です。
紬には、大島紬や結城紬などの高級品がありますが、いくら高級品であっても外出着やおしゃれ着以上にはならないのです。
お召し
紋をつけないお召しは外出着やおしゃれ着として着用できます。
紬よりフォーマル寄りなので、改まった場であれば袴を合わせ、ちょっとした訪問程度なら羽織を持参し、お出かけ程度なら着流しで、とさまざまなシーンに活用できる万能さも人気の理由の一つ。
カジュアルなシーンでは、色柄や小物類も比較的自由に楽しめますよ。
男性の普段着
普段着として着る場合は、「着物+帯」のみの着流しスタイルでも構いません。
普段のお買い物や外出の際に着用し、決まりごとはほとんどないのでファッションとしての着物を楽しめます。
- 絣
- ウール
- 上布
絣とは、絣糸で作られた織りの着物です。柄の輪郭がかすんだようにみえるのが特徴で、蚊絣や井絣といった柄があります。
素材は木綿や麻などさまざまで、江戸後期から戦後まで重宝されてきた普段着の定番です。中でも藍色の持ちが良い薩摩絣や、地質の丈夫な久留米絣は、高級なおしゃれ着として愛用されています。
ウールの着物はリーズナブルな上、自宅でも洗濯可能でシワになりにくいのが特徴です。
比較的お手入れが簡単なので、普段着にふさわしいといえるでしょう。あたたかい素材なので羽織とアンサンブルにしておけば、冬を中心に活躍します。
上布とは、細い麻糸で作られた上質な薄い布です。
汗を吸収しやすくさらっとした肌触りなので、夏の着物にぴったり。夏は暑くて着物は着ていられないという方は、一度試してみてはいかがでしょうか?
まとめ|男性もTPOに合わせた着物を着ることが大切
男性の着物は女性ほど種類が分けられているわけではありませんが、TPOに合わせたマナーやルールはきちんと存在します。
冠婚葬祭やお呼ばれなどの場合は、ホスト側に迷惑をかけてしまうことにもなりうるので、きちんと着物のことを知っておきたいですね。
もちろん、普段着で着用する際は堅苦しいことを考えず、好きに楽しんで何の問題もありません。
羽織や帯との組み合わせは無限大なので、ちょっとしたお出かけに和装をしてみてはいかがでしょうか。