せっかく着物を着たのならば、できるだけ一日を長く着物で楽しみたいですよね。
でも、「長く着ていると苦しくなりそう」「もし苦しくなってしまったら、どう対処していいのかわからない」「一人で対応できるか不安」といった不安はありませんか?
苦しくなる原因と対処方法について、詳しくみていきます。
なぜ着物は苦しいのか?着物の着付けが苦しくなる原因
帯や紐をいくつも巻き付け、何枚も重ね着をする着物は、何かと苦しいというイメージが付いて回りますが、正しく着付けができていれば吐きそうな程苦しいといったことにはまずなりません。
まずは着物が苦しくなってしまう原因について見てみましょう。
- 腰紐を締める位置が適切ではない
- コーリンベルト(胸紐)を締めすぎている
- 紐の結び目や、コーリンベルトのクリップが当たる
- 帯枕を締めすぎている
- 裾除けの紐を締める位置、強さが適切ではない
- 補正が適切ではない
腰紐を締める位置が適切ではない
着物は色々なものを体に巻き付けますが、中でも腰紐は長着を支える重要な役割を担っているもの。そのため自分で着つけをするときも、他人に着つけて貰うときも、ぎゅっと力を入れてしっかりと締めます。
この腰紐が苦しくなってしまう原因のひとつではあるのですが、大事なのは締める強さよりも、締める位置です。
縛るときに腰紐が上の方に寄ってしまったり、そもそもウエストのあたりに巻き付けてしまうと、胃が圧迫されて特に食事の後などに苦しくなってしまいます。
腰紐は胴が一番くびれている場所ではなく、腰骨の上あたりの位置に紐をかけるのが正解。正しい位置でなら圧迫される内臓もないので、強く締めても大丈夫です。
胸紐(コーリンベルト)を締めすぎている
胸紐もしくはコーリンベルトを強く締めることも、腰紐同様に内臓が圧迫されて苦しくなってしまう原因の一つ。(コーリンベルト:長さの調節できるゴム紐の両端にクリップがついているもの。胸紐として、着物の下前と上前を固定するために使用。)
息をするたびに締め付けられるように感じたら、胸紐を結ぶときに力を入れすぎてしまったことが考えられます。
そもそも胸紐は衿の合わせを綺麗にするために抑えるのが役目。腰紐のように何かを支えているわけではないので、強く締める必要はありません。人によっては結ばずにからげるだけにすることもあるくらいです。
襦袢の胸紐も同様、上から伊達締めや帯が巻き付いてくるので、必要以上に締めすぎないことを意識して着付けしましょう。
帯枕の紐を締めすぎている
胸紐にも、腰紐にも心当たりがないという場合、意外と盲点なのが帯枕の紐です。(帯枕:枕にガーゼなどがかかっており、胸の前で結ぶことができる。名古屋帯や袋帯を結ぶ際に、土台として使用。)
帯枕の紐の結び目も、その上からの帯の圧迫によって体に食い込んでしまい、苦しくなる原因の一つ。
帯枕は帯を支えるものですが、大事なのは締め付けの強さよりも身体にきちんと添っているかどうかです。ただし緩く締めすぎると、枕が体にフィットせず背中から浮いてしまうので加減が難しいところ。
ポイントは、結んだ後に帯の深いところまでしっかりと結び目を下げること。そうすると、やたらと強く締め付けずとも、枕を体に密着させることができます。
裾除けの紐を締める位置、強さが適切ではない
裾除けの紐についても結ぶ位置が大切です。(裾除け;長襦袢の下に、肌着として身に着ける紐が付いた、巻きスカート状のものです。ショーツなどの下着が空けてしまうことや、足に着物が纏わりつくことを防ぐための肌着)
肌から一番近い場所で結ぶ紐なので、一度着付けてしまったら直すのが大変です。
この紐は腰紐同様にウエストで結ぶのではなく、腰骨の位置で結ぶことによって食い込みを回避できます。
きつく締める意味は全くないので、落ちてこない程度のゆとりをもたせるか、裾よけ一体型の肌着を使用するといいでしょう。
紐の結び目や、コーリンベルトのクリップが当たる
締める強さも重要ですが、紐の結び目の位置や大きさなど、結び方が悪いせいで苦しくなっていることも。
紐の素材が厚手すぎると結び目が大きくかさばって、食い込んでしまうこともありますし、複数の紐の結び目が同じ位置に重なると、固い部分が身体に押し付けられて痛みや苦しさを生んでしまいます。
結び目は左右にずらして、結び方も蝶結びや片結び以外に、紐をくるくる絡げるだけにすると省スペースで済みます。
また胸紐に普通の紐ではなく、コーリンベルトを使用している場合、クリップが肋骨や胃に当たっていないかを確認してください。
その上から帯を締めると、クリップ部分が当たってしまい、長時間その状態だと痒くなってしまったり、圧迫されて苦しくなる原因となってしまいます。
その場合は、クリップの位置を、アンダーバストに来るように調節してみましょう。アンダーバストは、骨にも内臓にも当たらない収まりの良い位置です。
補正が適切ではない
着物と言えば補正をとにかく沢山するイメージがあると思います。
しかし、体形に合った補正を見つければ、必ずしもたくさん必要というわけではありません。多すぎる補正は、暑くなったり、身動きできないような締め付けを感じる要因になりえます。
かといって、補正をしなければいいというわけでもありません。
補正をしないと、着付けたときの見栄えはもちろんのこと、紐の締め付けを肌で直に受けてしまうため、圧力が分散されず苦しさを感じる原因となってしまいます。
補正の省略は着崩れにもつながるので、適度な補正を心がけましょう。
着物が苦しくならない着付けのコツ
ここからは、苦しくならないために、着付けの時に気を付けるポイントを紹介します。一つ一つは小さいことですが、取り入れてみると格段に快適になるかも。あなたにあったものを取り入れてくださいね。
- 息を大きく吸ってから着付ける
- 結び目が被らないようにする、結び目を小さくする
- 太めの腰紐を使い、面で抑えるようにする
- 正しい位置・高さで腰紐を結ぶ
- ゴム製の紐を使用する
- 正しい補正をする
- 和装用の補正下着を利用する
- 紐の本数を減らす
息を大きく吸ってから着付ける
苦しくならないための最も簡単な着付けのコツは、息を大きく吸って胸を膨らませること。そうすることによって、肋骨が最大限に広がっている状態になるため、着付けた後に息を吸っても紐の締め付けを感じにくくなります。
また正しい姿勢で着付けてもらうことも重要です。
背中の丸まっている状態や左右が傾いた状態で着付けると、変な部分に負荷がかかって苦しくなったり、着姿もしわが寄って美しくなくなってしまいます。
小さなことではありますが、意識するだけで息苦しさをかんじにくくなりますがかなり違いますよ。
結び目が被らないようにする、結び目を小さくする
腰紐や胸紐など、着付けのためには多くの紐を使用することになりますが、この結び目が同じ場所に重なると、その分身体に食い込んで擦れて痛くなったり苦しくなったりします。
そのため、結び目を作るときは、右で結んだら次は左、脇に近い部分や中心に近い部分といったように交互にするといいですね。
またあばら骨や鳩尾など、当たると苦しかったり痛かったりする場所の結び目も、移動させた方が帯を締めたときでも快適です。
また結び目が大きかったり、紐が長すぎるとその分、帯の周りがかさばって苦しくなってしまいます。
紐の結び方を工夫したり、長さは体に合わせて調節しておきましょう。
正しい位置・高さで腰紐や胸紐を結ぶ
原因の項目で紹介した通り、紐を結ぶ位置は苦しくない着付けをする上でとても重要。
腰紐は腰骨の上あたりで強く、胸紐はアンダーバストのあたりが正しい位置です。
これらがウエストのくびれ部分に寄ってしまわないように気を付けましょう。
太めの紐を使い、面で抑えるようにする
腰紐の太さを見直してみるのも良いでしょう。紐が細すぎる場合、強い力で締めるとどうしても食い込んでしまいます。
締める圧力の負荷を分散するためにも、太めの腰紐使って、線で結ぶのではなく面で抑えるようにすると食い込みが軽減します。結んだ後にねじれなどで細くなってしまった場合は、なるべく平らに広がるように調整しましょう。
また、一度使用した腰紐がしわになってしまっている場合、アイロンをかけてしっかり伸ばすだけでも変わりますので、試してみてください。
帯枕の紐も同様、細すぎると食い込みやすくなります。紐部分がガーゼになった帯枕はフィット感があるのでおすすめです。
ゴム製やモスリンの紐など、紐の素材を変える
また、紐の種類を見直すことも有効です。ゴムでできた紐は結び目もなく、締め付けも簡単に調節できるのでおすすめ。
またゴム以外にもモスリン(毛)の紐は、着物をしっかり面で押さえることができます。
ポリエステルの紐は緩みやすかったり、絹の紐は細く棒状になってしまいがちなので、これらを使っている人は、素材を見直してみるというのもありですね。
ただし絹の着物を着るときは、モスリンだと着物地を傷めてしまうことがあるので、注意してください。
正しい補正をする。和装用の補正下着を利用すると便利
補正の量や位置を正しくするということはとても大切です。補正しすぎてしまうと、その分身体に巻き付いているものが多くなり、当然苦しくなってしまいます。だからと言って全く補正しないと、今度は紐類が体に直接当たってしまい、やはり苦しさの元に。
補正は体の凹凸を埋めるように入れるため、例えば反り腰の人は腰のくぼみを埋めるように、やせ型の人はウエストのくびれをなだらかにするように…と足りない場所を埋めるイメージで行うとよいでしょう。
どんな体も凹凸がないことはありません。補正が全くなくてよい人はほぼいませんので、補正をきちんと行いましょう。
また着物には補正に特化した下着があります。着るだけで着物に合った体型に近付く便利アイテムです。
和装ブラジャーは、美しい衿元のために胸の形を整えてくれますし、ウエストやヒップも併せて一枚で完了するオールインワンタイプもあります。
タオルを紐で留める必要もないので、なるべく紐での締め付けを減らしたい場合にも有効ですね。
紐の本数を減らす
着付けに慣れてきた人なら、結ぶ紐の本数を減らすことも効果的です。
襦袢は伊達締めだけにして胸紐は使わない、夏の間は暑いので着物の伊達締めを取ってしまう、帯枕のいらない帯結びをする、といったように自分の体型や着付け方に合わせて紐を減らすとより一層苦しくない着付けをすることができます。
ただし、紐が少ないとその分着崩れはおきやすくなるので、崩れないほど短時間しか着ないというときや、ある程度崩れたとしても自分で直すことでできる上級者向けの対処法ですね。
着物が苦しい時の対処法
実際に、着付けるときに予防をしても、体調や状況によって、着ているときに苦しくなることも考えられます。
その際に使える、対処法について、具体的な方法を紹介。覚えておくだけで安心してお出かけできますね。
- 苦しいときは着付け時にきちんと伝える
- 帯締めを緩める
- 帯の位置を下にずらす
- 着物と帯の間に指を入れ、帯を緩める
- 胸紐を結びなおす
覚えておくだけで安心してお出かけできますね。
苦しいときは着付け時にきちんと伝える
もし自分で着付けるのではなく、成人式などの振袖を他の人に着つけてもらっているなら、苦しさを感じた時点で、きちんと伝えましょう。この時に調整を行わないと、自分で直すのは難しく、さらに苦しくなってしまったり、着崩れの原因となります。
着付けている側もベテランの手慣れた人ばかりとは限りません。どれくらい苦しさを感じているのか、痛みを感じるところがないか自己申告することも大切です。「今の紐すこしだけ緩められますか」「さっきの紐の結び目が骨にあたって痛いです」など何が苦しいのか伝えられるとすぐに直すことができます。
着付け師は、着付けの加減を調整することも仕事の一つですから、遠慮せずにしっかり伝えましょう。
帯締めを緩める
もし着ている最中に苦しさを感じた場合、帯締めを緩めることで対処が可能な場合があります。
帯にしわが寄るくらい強く締めあげている場合は、もう少し緩く結んでも帯は落ちてきませんので、緩めてしまいましょう。帯締めと帯の間に指がギリギリ一本入る程度がちょうどいい強さです。
しかし、帯自体がきちんと締められていないと、帯締めを外したせいで帯が崩れしてしまうこともあります。不安な場合、帯締めは体から離しすぎないように、脇で固定したまま、結び目だけを緩めるイメージで行うといいでしょう。
帯の位置を下にずらす
帯の位置が高く、胸の上のほうまで来てしまっている場合、帯を下にずらすだけでも苦しさは解消します。帯は思い切って下にずらしてしまっても大丈夫です。体調を優先して調整しましょう。
まずは息を吸って胴体を細くします。そのまま息を吐かずに、帯の中心を上からグイっと押し下げていきましょう。そのあとに、中心から脇に向かって少しずつ帯位置を平行に整えていけば、全体的に低い帯位置が完成。
帯は床に対して水平にするより、少し前下がり気味の方が結び目を収納するスペースができるので意識してみるといいでしょう。
着物と帯の間に指を入れ、帯を緩める
また、帯自体の締め付けを緩めることも有効です。もちろん帯を解くわけではありません。
着物と帯の間に人差し指・中指などを差し込み、帯と着物の間に隙間を作るイメージで、中心から脇に向かって流していきます。そうすることで、帯が緩むので少し楽になるはずです。
この方法を用いれば、帯の結び方によってはどんどん緩めていけるのですが、緩めたものをきつくし直すには帯を結びなおさなければいけなくなるので、やりすぎには注意してください。
緩めすぎると、帯結びが解けたり、締めるべきところが締まっていないため、着崩れの原因になります。
胸紐を結びなおす
少しコツは必要ですが、着物の胸紐を結びなおすことでも締め付けを調整できます。帯の下に結び目がある胸紐を見つけたら、一度結び目をほどいて、大きく息を吸ってから再度結びましょう。
このとき、注意したいのは帯締めを緩めるときと同じで、紐を体から離さないこと。着物自体は帯で支えられている状態ですが、あまり長時間そのままだと襟元や帯が崩れることもあるので注意が必要です
まとめ
着物は着ていて苦しいといったイメージがあるかもしれません。
しかし、昔の人は常に着物で生活をしていたわけですから、正しく着つけられてさえいれば動けないほど苦しいなんてことはないはずなのです。
苦しいと思った時でも、その原因た対処方法を知っておけば、調整ができます。決してずっと苦しいのではなく、工夫次第で楽にできることも知っておいてください。そうすれば、着物を着て出席する行事やお出かけがより一層楽しくなりますよ。