「虫干し」は、大切な着物を長持ちさせるのに欠かせないメンテナンスの1つです。
しかし、着物を持っている人の中にも「虫干しってそもそもどんなもの?」「方法は?」「適した季節があるの?」など虫干しに関する正確な知識をお持ちでないかたもいらっしゃるのではないでしょうか?
そこで、今回は、虫干しについて、「虫干しとは」という基本的な所から、季節や適した場所、必要な時間、具体的な方法などを詳しく解説していきます。
着物の「虫干し」とは
着物を湿気から守るために、直射日光の当たらない、風通しのいい場所で着物を干すのが「虫干し」です。
高温多湿な日本の気候下では、湿気の多い時期、タンスの中にも湿気が溜まってしまいます。着物の中でも特に正絹(絹100%)の着物は水分に弱く、湿気が原因でカビや色褪せ、変色や虫食いなどのダメージが起こってしまいます。
このようなダメージを防ぎ、着物を長持ちさせるためにも、定期的に虫干しを行う事が大切です。
虫干しに適した環境やタイミング
虫干しには、適しているといわれる時期、環境、時間帯などがあります。
- 時期…湿気の少ない季節。一般的に7~8月、9~10月、1~2月
- 環境…直射日光や、夕方の西日を避けた、風通しの良い場所
- 時間帯…日中湿気の少ない10:00~15:00頃までの2,3時間ほど
それぞれ詳しく見ていきましょう。
着物を干す時期や季節はいつ?
虫干しを行うのに適している時期とはいつなのでしょうか?
夏の「土用干し」秋の「虫干し」冬の「寒干し」が一般的
着物が日常的に着られていた時代には、クリーニング技術もなかったため、以下のように年に三回虫干しをしていました。
土用干し (7月下旬~8月上旬) |
梅雨で湿気の溜まった 着物を乾かす |
虫干し (9月下旬~10月中旬) |
衣替えの時期に 夏の間についた虫を払う |
寒干し (1月下旬~2月上旬) |
最も乾燥している 虫干しに最適な季節 |
現在も、これにならい虫干しを行うのはこの時期が一般的とされています。
年に三回虫干しを行うのが理想的ですが、最低でも年に一回は、晴れて湿度の低い日を選び虫干しを行いましょう。
ちなみに上の表の時期ならいつでもOKというわけではありません。雨の日は湿度が高く虫干しには適さないので要注意。
- 雨の日:かえって湿気を付けてしまうのでNG
- 雨の翌日:まだ湿気が空気に残っているので△
晴天が2~3日続き、空気がカラっとしている日を選ぶのが理想的です。
地域によっては通説以外の「湿度の低い時期やタイミング」に行うのが望ましい
虫干しに適した季節は、地域によっても異なります。必ずしも前述した季節でなければいけないというわけではなく、それぞれの地域ごとに湿度の低い時期を選んで虫干しを行いましょう。
特に現代と昔とは季節ごとの気温や湿度も微妙に異なってきているので、土曜干しの季節だから着物を干さなきゃ、というのではなく、今日はカラッとしているなと感じたときに行うのがおすすめです。
参考程度に各地の月ごとの平均湿度を確認してみましょう(参考:気象庁)。
東京 | 新潟 | 沖縄 | |
1月 | 54% | 79% | 67% |
2月 | 56% | 79% | 66% |
3月 | 65% | 66% | 67% |
4月 | 66% | 72% | 72% |
5月 | 71% | 74% | 78% |
6月 | 80% | 75% | 82% |
7月 | 77% | 75% | 82% |
8月 | 77% | 80% | 82% |
9月 | 86% | 80% | 79% |
10月 | 74% | 75% | 72% |
11月 | 72% | 78% | 71% |
12月 | 61% | 75% | 73% |
上の表を見ると分かる通り、虫干しに適しているといわれる1、2月でも新潟では晴れ間があまりなく、雪や雨の日が多いため湿度が高いことが分かります。
また、沖縄では7、8月は一年の中で最も湿度が高い季節なので、この時期は逆に虫干しを避けなければいけません。
このように、虫干しに適した季節も地域によって異なりますので、地域ごとに「湿度の低い」タイミングを狙って虫干しを行いましょう。
虫干しに適した場所はどこ?
虫干しには、直射日光や、夕方の西日を避けた、風通しの良い場所が適しています。直射日光や西日による、色やけ(染料の変色)を防ぐためです。
また、風通しの良い場所で干すことで着物の湿気をより早く取り除く事ができます。
室内で干す場合は、部屋の窓を開けて風通しを良くします。窓を開けられない場合や、風通しが悪い場合は、扇風機を使うと効果的です。色やけは、蛍光灯の光などによっても起こるので、注意しましょう。
虫干しに必要な時間や適した時間帯は?
虫干しを行うのに適した時間帯は、日中湿気の少ない10:00~15:00頃までの2,3時間ほどです。朝方や夕方は湿気が多くなるので、虫干しには向きません。
また、長時間干すことで、色やけのリスクが高くなってしまいまうので、適度な時間行うことも大切なポイントです。
着物の虫干しのやり方
実際に、着物や帯をどのような方法で虫干しすればよいのでしょうか?
着物の虫干しの方法
虫干しの手順は以下の通りです。前述したとおり、直射日光の当たらない風通りの良いところで行いましょう。
- 着物を裏返し着物用のハンガーに吊るす
- 着物専用ブラシで着物のホコリを落とす
- 一枚一枚たとう紙に包んで収納する
以下、それぞれの作業の注意点を少し詳しくみていきます。
着物をハンガーにかけて吊るす際は、着物が直接床に触れないように、敷き紙を敷いて行いましょう。着物を裏返して干すのは、色やけやホコリの付着を防ぐためです。
虫干しを行っている間に、空になったタンスの引き出しに掃除機かけた後から拭きし、タンスを開け放して換気を行っておきます。
通常のハンガーだと長さが足りず型崩れしてしまうことがあるので、できれば専用のハンガーが望ましいです。
虫干し後収納する前には、干している間に付いたチリやホコリを取り除くためにブラッシングを行います。
着物専用ブラシがない場合は、ハンカチで軽く表面を叩くようにしてホコリを落としましょう。
たとう紙は着物を湿気から守る役割があるので、そのままタンスに収納せずに、一枚一枚包んで収納します。
ちなみに、湿気を適度に保ち着物の収納にも最適と言われている「桐のタンス」ですが、上段の引き出しの方が湿気が少ないので、大切な着物は上段に収納しましょう。
帯の虫干しの方法
着物と同様、帯も定期的な虫干しを行いましょう。
帯の生地の間には芯が入っていて、湿気のあるところに保管しておくと、湿気を含んだ帯の生地から芯に湿気が移り、湿気がこもることによってカビが発生してしまいます。
虫干しの方法は、着物と同じです。着物の虫干しを行う際には、帯も一緒に虫干しを行いましょう。
虫干しに関するQ&A
虫干しに関する疑問をQ&A方式でまとめてみました。
Q.簡単な虫干しの方法はある?
A.大切な着物を優先して行う、たたんだままたとう紙を開けるなどで虫干しを時短
時間に余裕のない時や、タイミングが合わないなどの場合には、以下の方法で簡易的に虫干しを行いましょう。
- 虫干しの時期にこだわり過ぎず、時間がある時に
- 着物に優先順位を付けて特に大切なものだけを虫干しする
- たたむ時間がないときは、ほこりよけの布をかけて一旦保管する
- たたんだまま、たとう紙を開けて風通しを行う
簡易的な方法ですが、これだけでもやらないよりは随分違います。
特にたくさん着物を持っているという人は、一気にすべての着物を虫干ししようとすると、スペースが足りなくなったり、たたむのが億劫になったりと大変な思いをしてしまうので、優先順位をつけながらこまめに行うのがおすすめです。
Q.マンションであまりスペースがない場合のおすすめの干し方は?
A.一度に全部を干そうと思わずに、数枚ずつに分けて。タンスの引き出しを開けるだけでも効果的
着物をたくさん持っている場合、一度に虫干しするためにはその分スペースも必要になります。マンションなどであまりスペースがない場合には、工夫して虫干しを行いましょう。
- 数枚ずつ何回かに分けて虫干しする
- 虫干しに必要な十分な高さがない場合には、タンスを階段状に開けて空気の入れ替えを行うのも効果的
- 引き出しの中の上下の着物を入れ替える
室内の場合には、扇風機やエアコンのドライ機能を使えば、着物を効率的に乾燥することができます。
特に一番下にあった着物は湿気がこもりやすいので、たとう紙を開けたりして少しでも湿気を逃がしてあげるといいでしょう。
Q.虫干しの代行サービスの相場は?
A.一着につき500円程が相場、中にはそれ以上のところも、サービス内容は事前に要確認
虫干しの代行サービスとは、忙しい人や、虫干しするスペースが無いひとのために、虫干しを代わりに行ってくれるサービスです。染み抜き専門店や、着物屋、また着物専門のクリーニング店等で行っています。
サービス内容はお店により異なりますが、主に以下のことを行います。
- 着物の点検
- 大型の乾燥室などで着物を虫干し
- 新しいたとう紙に入れて終了
相場は、一着につき500円程です。中には、4,500円程という所もあり、このような場合は虫干しの他に、プレス仕上げやブラッシング等虫干し以外のメンテナンス費用も含まれています。
依頼する際には、サービス内容と金額はを事前に確認しておきましょう。
まとめ
虫干しは湿気に弱い着物を湿気から守る大切な作業です。
- 時期…湿気の少ない季節。一般的に7~8月、9~10月、1~2月
- 環境…直射日光や、夕方の西日を避けた、風通しの良い場所
- 時間帯…日中湿気の少ない10:00~15:00頃までの2,3時間ほど
虫干しはいつでも、どんな場所でもいいわけではなく、湿度が低く直射日光の当たらない時期と場所を選ぶ必要があります。
土用干し (7月下旬~8月上旬) |
梅雨で湿気の溜まった 着物を乾かす |
虫干し (9月下旬~10月中旬) |
衣替えの時期に 夏の間についた虫を払う |
寒干し (1月下旬~2月上旬) |
最も乾燥している 虫干しに最適な季節 |
思い入れのある大切な着物を少しでも長く楽しむためにも、きちんと虫干しをして着物の定期的なメンテナンスを行ってあげましょう。