着物を着る際や着た後、気になるのがお手入れの方法ですよね。
せっかくの着物に汗シミや泥よごれがついたままではオシャレさも半減してしまいます。
また、着物を着るシーンというと結婚式やパーティーなどお食事を伴う場面が多いのではないでしょうか。
飲み物や食べ物でできる汚れは放っておくと大惨事になるかもしれません。
そこで本記事では食べこぼしや雨の日など、着物の気になる汚れやお手入れの仕方、応急処置などを紹介していきます。
着物のシミ、汚れには種類がある
着物につく汚れやシミには、水溶性・油性・不溶性と大きく分けて3つの汚れがあります。
それぞれに対応した方法でないとかえってシミになってしまったり、汚れが広がってしまう場合もあるので、よく見極めて対処しましょう。
- 水溶性…ジュースやお酒などの飲食物等、汗
- 油性…ソースなどの油分の多いもの、ファンデーションや口紅、皮脂
- 不溶性…泥汚れやチリ、ホコリ
特に絹の場合、最初は汗や皮脂の薄いシミでも、経年によって黄色に変色する「黄変」などもあるため、汚れは早期発見、対処するのが一番です。
着物にシミや汚れができてしまったときの応急処置方法
泥はねや食べこぼしなど、気を付けていても避けられない汚れもありますね。
もし着物を汚してしまった場合、慌てて間違った方法の処理をしてしまうと、かえってひどくなってしまう場合もあるので注意しましょう。
落ち着いて対処できれば、その後のクリーニングなどでしっかり汚れを落とせます。
油溶性の汚れの場合|口紅やファンデーションなどのメイクはベンジンで対処
まずは、ソースなどの油分の多いもの、ファンデーションや口紅、皮脂など油分を含む汚れが付いた場合の対処法を紹介します。
これらの汚れは水にぬらすのは逆効果なので、焦って水道で洗い流したりしないようにしましょう。
油性のシミ、汚れを落とす際に必要なもの
- ベンジン
- プラカップなど(ベンジンを出すための容器)
- タオル2枚
- ドライヤー(冷風機能のあるもの)
ベンジンはドラックストアなどで500円程度で手に入れることができます。
油性のシミ、汚れを落とす際の手順
【油性の汚れを落とす手順】
- ベンジンをプラカップなどの容器にたっぷり出す
- 汚れた個所を広げ、下にタオルを一枚引く
- もう一枚のタオルにベンジンをたっぷりつけて、下のタオルに叩いて落としていく。
- 輪郭を馴染ませるようにぼかす
- 汚れが落ちたらドライヤーの冷風で乾かす。
汚れを落とすときは、こすると汚れが広がったり摩擦で生地が傷む原因になるため、絶対にこすらず叩いて落とすようにします。
落とす際に下に引いたタオルに汚れが移っていくので、必ずきれいな面にずらして落としていきましょう。
汚れの部分を叩いて落としたら、ベンジンで濡れて色の変わった部分を、さらになじませていくように広げます。こうすることで輪ジミになるのを防ぐことができます。
ベンジンは容器にたっぷりと取って使用したほうが良いため、使い切らず余る場合もありますが、余ったベンジンは絶対に水道に流してはいけません。
余った場合はタオルなどにしみこませた後タオルを陰干ししておくと乾くので、乾いたら洗濯して大丈夫です。
水溶性の汚れの場合|お茶やお酒などの飲み物は中性洗剤で対処
塩分、ジュースやお酒などの飲食物は自宅にある中性洗剤を使って落とします。
ただし時間の経った汗シミは、汗だけでなく皮脂も混じっているため、油性汚れの対処をしてから水溶性の汗の成分を落とすのが望ましいです。
水性のシミ、汚れを落とす際に必要なもの
- タオル2枚
- 中性洗剤(おしゃれ着用洗剤)
- 水
使用する中性洗剤は、家庭にある一般のおしゃれ着用洗剤で問題ありません。
水性のシミ、汚れを落とす際の手順
【水溶性の汚れを落とす手順】
- 汚れた個所の下にタオルを一枚引く。
- 中性洗剤を水で15倍ほどに薄め、それを含ませたタオルでシミを叩いて落とす。
- 陰干しして乾かす。
シミが広がらないよう必ず叩いて落としましょう。
中性洗剤は原液で使うとしみになりますので、必ず15倍から20倍に薄めて使います。濃ければいいというものではないので要注意。
泥汚れの場合|乾かすとさっと払うことが可能
泥汚れの場合、裾などちょっとした汚れなら一度乾かしてから払うと落とせますが、範囲が広い場合はクリーニングに出した方が良いでしょう。
よくわからずにいろいろ手を加えてしまうと生地が傷んだり、クリーニングでも落ちない汚れになってしまう場合があります。
クリーニングに出す際は、普通のクリーニング店よりも購入した呉服店など着物を扱っているところに相談するのがおすすめです。
染み抜きをする際の注意点
自分で染み抜きをする際は、汚れの見極めと早めの対処がコツです。
生地の縮みが気になる場合や、リサイクルなどで購入して素材が分からなかったりする場合は、内側など目立たない場所で試してみると大きな被害を免れます。
対処を間違えると取り返しのつかないことになるので、染み抜きの際のポイントや注意点を確認していきましょう。
ごしごし強く擦るのはアウト
着物に限らず、シミ汚れはとんとんと叩いて落とすのが鉄則。
強くこすると摩擦で生地が傷んだり、シミが広がる原因にもなります。
特に着物は通常の衣服に比べ、生地が繊細なものも多いため、ごしごししたくなる気持ちをぐっとこらえて、なるべく擦らず叩くようにして落としましょう。
汗をかいたらその日のうちに汗抜きをすると着物が長持ち
汗は一見透明で、汚れが無いように見えますが、中には皮脂や塩分、ミネラルなどが混じっていて、そのまま放置すると、残った成分が酸化して変色の原因に。
そのため、着物を着た後は、汗抜きを行うのが一般的。
方法は以下の通り。
【汗抜きの方法】
- 着物や襦袢を着物ハンガーにかけるか、床にひいたタオルの上に広げる
- 脇や腹、襟など汗をかいた場所に霧吹きやスプレーで水を吹きかける
- タオルでトントンと叩く
- 通気性のいい場所で陰干し
特に絹素材のものは汗の成分に弱く変色しやすいので、着用後は汗抜きをしておくようにしましょう。
ベンジンを使うと変色や輪ジミとなってしまうことも
草木染めなどの着物の場合、ベンジンを使うと変色する恐れがあります。
まず、生地の裏や目立たない部分で試してから、シミ落としをするようにしましょう。
また、シミ落としをする手順や環境が悪いと、シミが輪状に残ってしまうこともあります。
輪ジミは、落とす際のぼかしが足りなかったり、揮発して作業が間に合わなかったりすることが原因です。
ベンジンを使う場合は、暖房などを切って揮発を防ぎましょう。
洗剤を使うときは換気を十分に
ベンジンなどの洗剤や薬品を使用する場合は、必ず換気をして火のそばを避けて使いましょう。
ストーブなどは消して窓を開けて換気扇をつけてください。
たくさん吸い込むと健康被害が出る場合もありますので、マスクなどで対処しましょう。
箔や刺繍部分、縫い目の部分は染み抜きできない
訪問着など華やかな着物の場合、箔や刺繍がある場合がありますが、そういった装飾されている部分は汚れてしまっても落とすことが難しくなってしまいます。
またおくみなどの縫い目の部分は汚れやすい箇所ではありますが、シミ抜きができません。
着ているうちから注意するしかないので、塵除けコートを着用したり、食事の際にハンカチを引くなど工夫してください。
正絹(シルク)、ウールは水につけると縮む
正絹やウールなど動物性の天然繊維は水につけると縮む場合があります。
特にちりめんなどは縮みやすいので、仕立てる際に必ずガード加工をしてもらってください。
リサイクルなどでガード加工がしてあるかわからないものの場合目立たないところでで試すか、クリーニング店に相談しましょう。
自分で処置するのが難しいシミも
お出掛けなど、すぐには着替えのできない場合の応急処置は必要ですが、基本的に染み抜きは専門店にお願いするのが着物のお手入れのコツです。
無理に自分でシミ抜きをするのは、よりひどくなってしまう原因にもなり、最悪の場合着用が難しくなってしまう場合もあるのでリスクをよく考えて行いましょう。
自分での対処が特に難しいシミは以下の通り。
- 血液や乳製品、肉汁などのたんぱく質系のシミ
- ワインやしょうゆなどの色の濃いシミ
- 水溶性と油溶性が混ざったもののシミ
- 時間が経ったシミ、黄変
血液や乳製品、肉汁などのたんぱく質系のシミ
血液や乳製品、肉汁などのタンパク質系のシミの場合、必ず冷たい水(お湯はNG)で叩くように落とすのが良いですが、範囲が広いと輪ジミになりやすいので専門店にお願いしたほうが良いでしょう。
また、肉汁などは油も含んでいるので、自分でお手入れする際は油溶性の処置をした後に水溶性の処置をしましょう。
ワインやしょうゆなどの色の濃いシミ
ワインなどの色の濃いシミは、まずその場ではハンカチなどで生地を上下から挟んで水分を取りましょう。
小さいシミならそれで目立たなくなる場合もありますが、ワインの場合は青っぽく変色してきますので、応急処置をした後は必ず専門店にお願いしましょう。
水溶性と油溶性が混ざったもののシミ
肉汁やマヨネーズ、バターなどの水溶性と油溶性の混ざったシミの場合は、油溶性の処置をした後に水溶性の処置をしましょう。
チョコレートなどもそれに含まれますが、色素が残りやすいため特に注意してください。
時間が経ったシミ、黄変
前述した通り、黄変とは経年変化で茶色くついてしまうシミのこと。
原因は汗の残留・カビによる酸化・正絹の酸化などがあげられます。
自分でシミ抜きをする場合はベンジンや洗剤で汚れを浮かせて落としますが、黄変の落とし方はシミの箇所を漂白して汚れを落とし、上から元の生地の色と同じ色にもう一度染めるというやり方をします。
自分でお手入れできるシミとは性質や落とし方がそもそも違うため、専門店にお願いしましょう。
自分で染み抜きするのが難しい場合はクリーニングへ
着物のちょっとしたシミ抜きでも、慣れていない場合や高級な着物の場合など失敗のリスクが高い場合は専門店にお願いしたほうが良いでしょう。
セルフでのシミ抜きに失敗すると、専門店でも落ちなくなってしまうので注意が必要です。
汚れの種類が分からない場合や範囲が広かったりする場合は、応急処置にとどめてすぐに専門店に持ち込みましょう。
染み抜きを依頼する方法
染み抜きはクリーニング店に依頼できますが、通常のクリーニング店と、着物専門のクリーニングではサービス内容が異なります。
自宅近くのクリーニング屋さんに依頼する場合
チェーン店などの、一般的なクリーニング店でも着物のクリーニングを取り扱っている場合があります。
丸洗いや汚れ落としに対応しているところを探しましょう。
ただし、正絹など天然素材で作られた着物に対応できない場合や、受け付けのスタッフに着物の汚れや素材に対する知識がない場合があり、的確な対応をしてもらえないことも。
着物に対応していても丸洗い(全体の汚れをざっと落とすドライクリーニング)のみで、汚れ落とし(シミ抜き)には対応していないということも多いので、きちんと着物の手入れをしたい場合には要注意です。
着物クリーニングの専門店に依頼する場合
高級な着物のシミ抜きや広い範囲のシミ、黄変などは専門店にお任せしましょう。
着物専門のクリーニング店が見つからない場合は、着物を誂えた呉服店などに持ち込むと対応してもらえる場合があります。
クリーニングに持ち込む場合、応急処置をした場合はどういった処置をしたのかをきちんと説明してからお願いしましょう。
染み抜きの相場
シミ抜きは丸洗いとは別料金の場合がほとんどです。
着物の丸洗いはほとんどがドライクリーニングでの対応となりますので、汗の汚れなどを落としたい場合は「汗抜きもお願いします」と伝えましょう。
専門店でのシミ抜きは、範囲にもよりますが大体が1か所3,000円~5,000円程度でお願いできるところがほとんどです。
シミや汚れのある着物を売ることはできる?
遺品や着なくなった着物を売る場合に、シミを見つけてしまう場合もあります。
タンスに入れっぱなしになっていた着物は置きジミや黄変、全体の黄ばみなどが目立つ場合もあるでしょう。
遺品整理や断捨離で着物を売りたい場合、シミや汚れがあっても売れるのかをご説明します。
傷みがひどくなければ汚れがあっても売れる
着物の査定では、やはり汚れやシミが査定額のポイントになってきます。
シミに関しては広い範囲でなければそこまで査定額に響くことはないでしょう。
下前側や袖まわりのちょっとした汚れであれば問題ないことが多いです。
また、クリーニングで落ちたり目立たなくなるシミに関しては問題なく買い取ってもらえます。
幅広く買取対応をしてくれる着物買取専門店に出すのがポイント
着物買取専門店では着物の状態ごとに買取のランクが決まっており、汚れの状態を見極めて買い取ってもらえるためそのまま持ち込んでも大丈夫です。
クリーニングによって落ちる汚れであれば査定額にも響きにくいでしょう。
リサイクルショップなどだと専門的な知識がない場合がほとんどなので、汚れている着物は買い取ってもらえなかったり、そうでない着物もグラム単位の計算で安く買い取られてしまうこともあるので注意してください。
クリーニングに出したり染み抜きをするのが逆効果なことも
買取の査定をしてもらう前に「できるだけ綺麗な方が高く買い取ってもらえるのでは」と自分でクリーニングに出したり染み抜きをしてしまう人も多いですが、これは要注意。
着物の買取価格は査定してもらうまでわかりません。早まってクリーニングに出すと、クリーニング代の方が高くなってしまうことも。
それどころか自分で染み抜きをして失敗した場合は、せっかくの貴重な着物の価値を下げてしまうことだってありうるのです。
着物専門の買取業者であれば、染み抜きやクリーニングにかかる費用も考えて、査定結果を出してくれるので、無理にいじるのは控えた方がいいでしょう。
【まとめ】正しい染み抜き方法で着物を大切にしましょう
着物は体型の変化に響きにくいため長く着られるものです。
きちんとお手入れしていれば100年以上も着られるのが着物の良さですね。
正しい知識でお手入れして、お気に入りの着物をいつまでも大切にしましょう。