普段着物を着用しない人にとって、着物と言えば冠婚葬祭の時に着るフォーマルなイメージがあるものですが、着物には大きく分けて「織り」と「染め」の2種類があります。
この「織り」と「染め」の着物はそれぞれ特徴があり、種類によってフォーマルな場に適したものから普段使いに適したものまでさまざま。
今回は着物の基本「織り」と「染め」について、特徴や使い分けについて紹介していきます。
「織り」と「染め」の違い
織りと染めの違いは、大まかにいうと着物や帯となる生地にいつ色を付けるか、にあります。
「織り」は色を染めた糸から、布を織り上げて作った生地のことを指し、対して「染め」は白い糸で布を織りあげて、後から色を染めたものです。
二つの着物はたとえ同じ素材から織りあげていても、やわらかさや着心地、見た目も違ってきます。
一般的に先に糸を染め上げてから織る「織り」の生地はパリッと硬く丈夫で、着物ならカジュアルな普段着に使うもの。
やわらかな「染め」の生地で作られた着物は、高級感が出るので、かしこまったフォーマルな場で着るのに適しています。
例えば洋服の場合、普段カジュアルな場では「ジーンズやTシャツ、短パンなど」を着て、フォーマルな場では「スーツやドレスなど」を着たりしますよね。
着物も同じように、カジュアルな場とフォーマルな場で着る着物の種類が違ってくるのです。
場合によってはTPOに合わせて着て行かないと、恥をかいてしまうかもしれませんので、カジュアルな場では「織り」の着物、フォーマルな場では「染め」の着物と覚えておくとよいでしょう。
織りの着物とは?特徴とシーンによる使い分け
ここからはさらに、二つの生地の着物について特徴や使い分けを紹介していきます。
まず「織り」の生地の着物の特徴を見ていきましょう。
織りの着物の特徴。織りの着物にはどんな種類や織り方、柄がある?
「織り」の生地は、糸を染色してから織り上げるもの。織る前に糸を染色するため別名「先染め」とも呼ばれています。
生地の種類にもよりますが、糸を鍋に入れ、漬け込む、煮る、干すという作業を繰り返し行い、色を付けていくものが多いです。泥染めなど、自然の染料を使ったものは特にやわらかで深みのある色に仕上がり、着物地としてとても人気があります。
無地の織りの生地は一色の糸で織りあげていきますが、柄を付ける場合は複数の色の糸を用意し、織りあげながら柄を作っていきます。
そのため染めのように繊細な花柄などというようにはいきませんが、縞柄や絣、格子といった使いやすく、馴染みやすい柄が多いです。
織りで作られた代表的な着物といえば、紬でしょう。紬の中でも鹿児島県奄美大島で作られている大島紬や、結城地方で作られている結城紬は有名ですよね。
本場の大島紬や結城紬は非常に高価で、着物好きなら一着は欲しいと思うほど人気があります。
他には御召、ウール、木綿なども織りの着物。着心地は少し厚みがあり、硬めな触感が特徴的です。
織りの着物を着る機会|カジュアルシーンに適した着物
「織り」の着物は、普段使いやカジュアルな場所での着用に適しています。
例えば、友人同士のカジュアルなお食事会や、ショッピングなど、普段気軽にお出かけするような場所に着て行くのがおすすめ。
大島紬や結城紬は高価なものではありますが、かといってフォーマルな場に着ていけるわけではないので注意しましょう。
冠婚葬祭やパーティーなどフォーマルな場所で着てしまうと、恥ずかしい思いをしてしまう上、主催に迷惑をかけてしまうかもしれません。
染めの着物とは?特徴とシーンによる使い分け
「染め」の着物とは、フォーマルな場所やかしこまった場所に適した着物です。基本的には高価なもので、購入した着物を、染め直して親子代々受け継いでいくこともあります。
染めの着物の特徴。染めの着物にはどんな種類や染め方がある?
糸を染めてからつくる織りの生地とは対照的に、「染め」の着物は、生糸を織って生地にしてから、それを白く精錬し、色や模様を染め上げていきます。そのため織りが先染めであるのに対して「後染め」と呼ばれることも。
染色する方法はざまざまで、たとえば「友禅染め」に見られるような手書きのもの、小紋などに代表される型紙を用いて染料や顔料で染める「型染め」などがあります。
繊細な作業を要することが多く、染めの施された着物はとても高価なものが多いですが、近年では機械でプリントしたものもあり、こちらは比較的安価に手に入れることができます。
他にも沖縄の紅型やろう染、草木染めが染めの着物地として利用されることが多いです。着心地は一般的に織りの着物よりやわらかくなります。
染めの着物を着る機会|フォーマルシーンに適した着物
「染め」の着物は、冠婚葬祭などフォーマルな場所に適した着物です。成人式や結婚式、パーティーなどかしこまった場所に着ていくなら染の着物を選ぶのが正解。
かといって染の着物であれば何でもいいというわけではなく、着物の種類によっては、フォーマルな場所に着て行くのに適さない場合があるので注意が必要です。
たとえば留袖や振袖は着物の中で最も格が高く、次いで訪問着、紋付きの色無地と続きます。この辺りはフォーマルと言われる場にふさわしいため、問題なく着られるでしょう。
しかし、同じ染めの着物でも型染めを使った小紋は一般的におしゃれ着の扱いです。
洋服でいうとおしゃれなワンピースという具合なので、食事会などのちょっとしたおでかけにはぴったりですが、結婚式などに着て行くことはないので注意しましょう。
帯にも「染め」と「織り」がある
着物の「染め」と「織り」を紹介してきましたが、着物を着る際に使う帯にも「染め」と「織り」があります。
しかし帯は着物地とは違った使い分けをするため、順に紹介していきましょう。
帯は染めがカジュアル、織りがフォーマル
染めの帯
織りの帯
帯における「染め」と「織り」は格が着物とは逆転し、「染め」の帯はカジュアル、「織り」の帯はフォーマルになります。
「染め」の帯は、白い糸で織ってから色染めするという方法は着物と一緒ですが、柔らかめで質素なものが多いです。
「織り」の帯は、糸を染色してから織り上げるという方法は着物の生地と一緒ですが、そのあと刺繍を施していくと重みがあり奥行きのある作りになっていきます。
特に金や銀の糸で織られた帯はとても豪華でフォーマルな場でもよく映えるでしょう。
西陣織などはよく聞く多彩で絢爛な絹織物。フォーマル用の織りの帯として有名です。
博多織の帯は先染めですが、カジュアルからセミフォーマルまでこなす万能帯なので一本持っていると重宝します。
格をそろえて着用することが望ましい
基本的に着物と帯は格をそろえて着用します。
そのため「染め」の着物は「織り」の帯を合わせてフォーマルな場所で、「織り」の着物には「染め」の帯を合わせてカジュアルな場所で、合わせて着るとよいでしょう。
格を合わせないで着物と帯を合わせてしまうと、フォーマルなドレスにカジュアルなスニーカーを合わせたような、アンバランスな着方になってしまうので要注意。
まとめ
染めと織りは着物の基本。本来はもっと細かく格や組み合わせが分かれています。
しかし、そこで「やはり着物は難しいな」としり込みせず、まずは好きに楽しんでみる気持ちも重要です。
ルールやマナーは必ず守らなければいけないものではなく、着やすさや過ごしやすさ、美しさを意識した結果生まれたもの。
楽しく着物を着ていればそのうち自ずとわかってくるものなので、まずは難しく考えずに触れることから始めましょう。