着物は先に染めたか、それとも後で染めたかによって種類が分かれます。
特に、織った後で着物地を染める、いわゆる「染め」の着物には多くの種類の染色技法があり、独特の表現が魅力的です。
今回は着物の「染め」の技法について紹介していきます。
着物は染めるタイミングによって種類が分かれる
着物は、染めるタイミングによって「先染め」と「後染め」の2種類に分かれます。また、それぞれの着物は、どのような場面で着用するのがいいのでしょうか。
先染め|糸を染めてから織る「織り」の着物
まゆからできた生糸を先に染めてから織る「織り」の着物のことを「先染め」といいます。「織り」の着物は、生地にハリと厚みがあり、固めの手触をしているのが特徴です。
紬(つむぎ)やお召し、紗(しゃ)、上布(じょうふ)、縮(ちぢみ)、木綿などの着物が「先染め」にあたります。紬や縞などの柄のある着物は、異なる色を用いて織られており、縦糸と緯糸の組み合わせによって、シンプルな模様から複雑な模様までできます。
このような「織り」の着物は、街着や普段着のようにカジュアルな場面で着用します。そのため、結婚式の披露宴などフォーマルな場所には向いていませんので、注意しましょう。
後染め|白い着物地を染める「染め」の着物
織った後に白い着物地を染める「染め」の着物のことを「後染め」といいます。このような「染め」の着物は、「やわらかもの」と呼ばれ、手触りがよくしなやかで、ゆったりした着物が多いです。また、光沢があり、優雅・華麗です。
例えば、振袖、留袖、訪問着などが「染め」の着物にあたります。
このような「染め」の着物は、結婚式の披露宴や入学式など、フォーマルな場所や格式高い場面で着用することが多いです。
また「染め」の着物は、色を抜いて「染め直し」ができます。若い時に着ていた着物を、年代に合わせた色に染め直してリメイクすることで、着続けることができるのです。
着物に使われる染料は大きく分けて二種類
着物に使われる染料には、「化学染料(合成染料)」と「天然染料(自然染料)」の大きく2つがあげられます。
化学染料(合成染料)|大量生産が可能なコスパのいい染料
「化学染料(合成染料)」は、主に19世紀から20世紀にかけて開発された染料です。
日本では、明治時代から盛んに用いられるようになります。色の調節が「天然染料」と比べると比較的簡単で、同じ色を再現しやすいことから、大量生産が可能になりました。
天然染料(自然染料)|独特の色合いが魅力の伝統的な染料
「天然染料(自然染料)」は、その名の通り草花などの動植物から抽出したものを使って染色します。「天然染料」は、材料に限りがあったり、染色の手順が複雑だったり、同じ色を作り出すのが難しかったりなどがあり、「化学染料」よりもコストがかかることが多いです。
しかし、どのような色が出るのか分からないところが、また魅力でもあります。また、自然界のものを使って染めているので、安全性が高いです。
また天然染料は、「植物系」「動物系」「鉱物系」の大きく3種類の原料からできています。
植物系|藍や紅花などを利用した草木染め
植物系の天然染料は、花や草などの植物から染色する「草木染め」などがあります。日本国内だと、徳島の「藍玉」や山形の「最上紅花」などが有名です。
植物からできた染料と言っても、何度も染め上げることで、鮮やかな発色になります。これらは、時に金と同等の価値で取引されました。
動物系|現在はほとんど見かけない貝がらを使った染料
動物系の天然染料には「貝紫染め」と呼ばれる染料があります。古くから世界中で用いられてきた染料ですが、現在ではほとんど見かけません。
「貝紫染め」は、巻貝にある「パープル線」と呼ばれる赤紫色の筋から染料を抽出して使用されますが、採れる量は非常に少ないです。そのため、「貝紫染め」で染められたものは非常に貴重なものだと言えます。
鉱物系|大島紬など泥を使った染料は人気が高い
鉱物系の天然染料には、奄美大島特産の大島紬(おおしまつむぎ)のような「泥」を使った染料があります。「大島紬」の美しい図柄と深みのある色合いはとても人気が高いです。
大島紬は、「泥」とバラ科の植物「車輪梅(しゃりんばい)」を使用します。泥に含まれる鉄分と植物の成分で化学反応を繰り返すことで、色落ちしにくい丈夫な布になるのです。
後染め着物の主な染め方の種類
後染め着物には、いくつか染め方があるのですが、ここでは代表的な「友禅染め」「型染め」「三纈(さんけち)」について紹介しています。
友禅染め|手描き染めの技法
手描き |
型染め |
「友禅染め」は、現代でも最も有名な染色技法です。
江戸時代、京都の扇絵師である「宮崎友禅斎」から名付けられました。元々は扇に描いていましたが、着物の柄や染色技法としても利用されるようになります。現在でも有名な友禅は、写実的な加賀友禅やデザイン的な京友禅、東京友禅などです。
「友禅染め」の一番の特徴は、絵画的な表現ができること。特に「友禅染め」では、自然をモチーフにした風景画がよく染められます。
「友禅染め」には「手描き染め」と「型友禅」の2種類の技法があり、特に「手描き染め」はその名の通り「手描き」で行われており、一点物です。
型染め|小紋や紅型、長板中形、手拭中形、更紗など
紅型 |
小紋 |
「型染め」とは、型紙を使って染める技法です。
小紋(こもん)や紅型(びんがた)、長板中形(ながいたちゅうがた)、手拭中形(てぬぐいちゅうがた)、更紗(さらさ)など、名称は違いますが、これらも「型染め」の技法で染められています。
「型染め」は、「防染糊」と呼ばれる糊を使用することで、模様を作ることが可能です。防染糊で染めるところと染めないところ(防染)と分けることで、染めた時に模様ができます。模様によって色んな型紙を使って染められ、複雑な表現も可能です。
この他、型紙を置いてその上から刷毛を使って色を染めるものもあり、同じ「型染め」でも型紙の使い方は様々にあります。
三纈(さんけち)
「三纈(さんけち)」とは、代表的な3種類の染色技法を指していいます。歴史は古く、日本では唐文化の影響を受けた奈良時代に盛んに生産されました。
3種類の技法とは、「纐纈(こうけち)」「夾纈(きょうけち)」「蝋纈(ろうけち)」の3つのことです。防染する部分を絞ったり、板で挟んだり、ロウを塗ったりして染めます。
しかし、時代が下るにつれて染色技法が発達し、大変な労力がかかる「三纈」は衰退していきました。現代盛んに行われていませんが、「纐纈」は「絞り染め」、「夾纈」は「板締め染め」、「蝋纈」は「ろう染」と名前を変えて伝承されています。
纐纈染(こうけち)/絞り染め
「纐纈染(こうけち)」とは、現在でいう「絞り染め」のことです。名前の通り、生地の一部を絞って圧力を加え、染料が染み込まないようにすることで模様を作ります。
「纐纈染」には、「鹿の子(かのこ)」や「疋田(ひった)」「有松」「鳴海」などがあります。
「鹿の子」は、生地を絹糸などで小さく摘んで括ってできた小さな四角い模様です。これが鹿の斑点模様に似ていることから「鹿の子絞り」と呼ばれています。またこの模様のことを「疋田」と呼ぶこともあります。「疋田」とは「京鹿の子絞り」の代表的な絞りの技法の一つで、模様を特定しない、いわば総称です。
「有松絞り」「鳴海絞り」は、愛知県名古屋市の有松・鳴海地域を中心に生産される染めの織物です。普段着としての木綿から豪華な振袖まで、様々な絞りを駆使した着物が生産されています。
夾纈染(きょうけち)/板締め染め
「夾纈(きょうけち)染」または「板締め染め」は、模様を彫った板の間に布を挟むことで、その部分を防染して染色する技法のこと。
布の折り目を境にして、左右対象に模様ができるのが特徴です。染色の中でも非常に難しい技法と言われており、現在ではほとんど行われていません。
蝋纈染(ろうけち)/ろう染め
「蝋纈(ろうけち)染(﨟纈染とも)」または「ろう染め」は、ロウを熱で溶かしたものを模様部分に塗って防染し、染色する技法のことです。
ロウが固まった時にできるひび割れに染料が染み込み、独特の亀裂模様ができる場合があります。
また、「押﨟纈」という型版を作り、スタンプの様に蝋を押す技法や、ロウを溶かして筆で描いたものと、この「押﨟纈」を併用したものもあります。
たたき染め
着物で使用する「たたき染め」は、基本的に「ろうたたき染め」になります。
布地にロウをたたいて落とすことで防染し、模様を作ります。ロウの落ち具合によって生まれる偶然性が魅力です。
また、「たたき染め」には植物染料を使うこともあります。
布に挟んだ植物を、ハンマーなどで軽く叩きながら、色素をそのまま布にくっつけることで染色します。この方法は子どもでも簡単にできるので、ワークショップなどで行われることも多いです。
墨流し染め
「墨流し染め」とは、日本最古の染色技法の一つと言われています。
水槽にとろみをつけた液を張った上に色を浮かせ、その模様を生地に写しとることで染色する方法です。
浮かせた色は、棒などで描いてコントロールしたり、偶然性を生かしたりします。墨だけでなく、様々な染料を使った鮮やかなものも多いです。
現代ではプリントで染めを表現した着物も多い
現代では、インクジェットプリンター技術の進化によって、プリントされた着物も出てきました。
プリントで染めを表現した着物は、決して質が悪いわけではありません。ただ、プリンターの性質上、厚手の生地に印刷できないため、生地が薄いものが多いです。
しかし、プリントされた着物は、手工芸品の着物よりも安く手に入り、カジュアルに着物を楽しむことができるメリットがあります。
雨の日に気兼ねなく着るならポリエステルにプリントされた着物を、特別な日には正絹の手描き染めの着物をぴしっと着こなすといったように、天気や用途によって素材を変えるのが多様性に溢れたこの時代に合った着物の楽しみ方と言えるでしょう。
まとめ
昔ながらの染めは、時間と労力がかかるので量産するのが難しい面もありますが、個性ある一点モノとして、その「染め」には味わいがあります。
また、プリントや合成染料でできた着物も、その手軽さから「着物を着ること」へのハードルを低くしてくれて、気軽に着物を楽しむことができます。
着物ファッションとして1回だけの楽しみなのか、結婚式や訪問着としてこれからも大切に手元に置いておきたい着物なのか。昔ながらの染めとプリント、双方それぞれの良さがあるので、個々人の考えによって選択するのが大切になってきます。