着物好きを公言する人の中には「着物はよく着るけれど、羽織はあまり合わせない」という人もいるのではないでしょうか?
しかし実は、羽織の活用次第で着物のコーディネートがもっともっと楽しくなるのです。
そこで今回は、羽織に焦点を当てて、羽織の役割から、種類ごとの使い分け方、またコーディネート方法や、羽織に関するQ&Aまで、詳しく解説していきます。
着物の羽織はなぜ着るの?羽織の役目とは
女性の羽織には主に以下のような役割があります。
- 防寒
- おしゃれ
- 着物全体の格を上げる
羽織は、その文字通り着物の上に「羽織る」もので、洋服で言う「カーディガン」のようなものです。着物全体を格上げするために着用したり、また防寒用や着物姿をよりおしゃれにするなど様々な用途に使われます。
羽織には「黒紋付」「絵羽羽織」等、いくつかの種類があり、それぞれ格が違います。
【シーン別】羽織の使い分け方・選び方
羽織には長さによって、本羽織、中羽織、茶羽織と種類が分かれます。
基本的には丈の長い本羽織がフォーマルな雰囲気となり、中羽織、茶羽織と短くなるにつれてカジュアル向きに。
さらに着物同様、紋や柄の入り方によっても格が異なります。
羽織にはどのような種類のものがあるのか、また種類ごとの着用シーンもあわせてみていきましょう。
紋付の本羽織なら入学式や卒業式、お宮参り、七五三などフォーマルな行事でも対応可能
「本羽織」とは、丈が膝下まである羽織のことで、既婚女性が着用する羽織です。
本羽織と呼ばれるのは主に「黒紋付」「色紋付」「絵羽羽織」の3つ。
紋付の本羽織は羽織の中でも一番格が高く、礼装としては着られませんが、入学式や卒業式、お宮参り、七五三などのお祝い事などで着用すると着物全体の格を上げる役割をしてくれます。
本羽織に付いている紋は、それぞれの家の「家紋」です。入れる紋は嫁ぎ先の紋でも、実家の紋でもかまいません。
レンタルの羽織の場合には通し紋の「五三の桐」が付けられているケースが多いです。
最も格調高い色は黒ですが、他に色無地の羽織や絵羽羽織にも紋を入れることができます。
ただし本来なら、フォーマルな場には羽織ではなく、「道行」や「道中着」等の羽織りものを合わせるのがマナーなので、立場や雰囲気に合わせて選ぶのが大切です。
絵羽羽織や色無地の羽織はカジュアルパーティなどにも
あまり肩肘張らないパーティーなどで着用するなら黒無地よりも華やかな色無地や絵羽羽織がいいでしょう。
かしこまった場なら紋がある方が望ましいですが、カジュアルな雰囲気であれば紋が無くても問題ありません。
本羽織のように長いものはかしこまった印象に、短いものはカジュアルな印象になるため、場によって使い分けられるといいですね。
小紋や絞り、レースの羽織などはジュアル向き
小紋や絞り、レースなどの羽織りは、完全なカジュアル着です。
自分が主役のシーンで、おしゃれを楽しむ場合には、カーディガンのような感覚で好きな羽織を自由に合わせてコーディネートしましょう。
【種類別】羽織のコーディネート方法。着物との合わせ方
羽織の種類別に、コーディネート方法を紹介します。
黒紋付き(紋付黒羽織)
黒無地の羽織に紋を付けた黒紋付は羽織りの中でも一番格上。黒地でない色無地や小紋、付け下げと合わせるのがおすすめです。
小紋などは着物の中でも格が低く、フォーマルには向きませんが、紋付の本羽織りを着ることで、着物全体の格を訪問着や、付け下げなどと同格の「準礼装」に引き上げてくれます。
「小紋柄の着物に黒紋付を羽織る」というこのスタイルは、昭和のお母さんの定番スタイルで、今はあまり見かけることはありません。しかし、この知識を頭に入れた上であえて着用するのも粋かもしれませんね。
色紋付き(紋付色羽織)
色無地に紋を付けた色紋付の羽織も黒紋付の羽織と同様、羽織の中では格上です。
陰の縫い紋でも一つ付けておくと、小紋はもちろん色無地や付け下げに羽織り、幅広く使えるのでおすすめ。
また、これも黒紋付羽織と同様、小紋などと合わせて着用する事で全体を格上げしてくれます。
色紋付羽織は、黒紋付よりも全体的な雰囲気が少し柔らかく、女性らしいイメージになるのでパーティなどでも重たくなりすぎずに着られるでしょう。
濃いめの色であれば着物を引き立てたフォーマルな印象に、薄めのお色では全体が調和したやわらかな印象になるので、よりコーディネートが楽しめます。
絵羽羽織
絵羽羽織は、柄付きの羽織りです。
小紋柄のように全体に模様があるのではなく、訪問着と同じく縫い目をまたぐように所々模様が入っています。
無地の落ち着いた着物にこの絵羽羽織を合わせると、全体の印象が華やかに。
ひとくちに絵羽羽織といっても、柄によって雰囲気がまったく異なるため、軽い柄なら外出着に、格調の高い柄なら紋も入れてちょっとしたお呼ばれに、といったように使い分けるのがいいでしょう。
絞りの羽織
絞りの羽織は出来上がるまでに多くの手間がかかるので、高価なイメージがありますが、あくまでもカジュアル着として着用します。小紋や紬などのおしゃれ着の着物の上に、アウター感覚で羽織りましょう。
組み合わせは好みですが、絞りの羽織は柄の沢山入っている小紋等に合わせると、全体の雰囲気が少し落ち着きます。
また、地味な着物の場合は、全体の雰囲気を少し華やかにしてくれます。
小紋の羽織
小紋の羽織もフォーマルシーンには向きません。小紋や紬等のおしゃれ着の上にカーディガン感覚で羽織り、楽しみましょう。
様々な色柄のものがある小紋の羽織のコーディネートのコツは「柄の大小でメリハリを付ける」事です。
合わせる着物が大柄の小紋の場合は、小さな柄の羽織を、また、江戸小紋などの細かい柄の着物に合わせる羽織は、大柄の小紋柄というふうに、柄の大きさにメリハリを付けると、全体がバランスよくまとまります。
また、羽織と着物で色のコントラストを付けると、同化しないので、これもおすすめです。例えば、紺地の着物で黄色の羽織などを合わせると、羽織と着物それぞれの印象を上手くアピールすることができるでしょう。
紬の羽織
紬は先染めの絹織物です。紬の羽織は渋い色合いで、シックなイメージの物が多いので、全体の雰囲気を大人っぽく落ち着かせてくれます。
紬の羽織には、素材を合わせた紬の着物が一番良く似合います。またお召し、木綿などに合わせてもしっくりとまとまるでしょう。一方でドレッシーな着物や帯には少々浮いてしまうかもしれません。
薄い色の紬の着物には、濃い色の羽織を、また、濃い色の着物には薄い色の羽織を合わせると、着物と羽織それぞれが引き立ちます。また着物地と同じ生地でアンサンブルも作るのもかわいいですね。
紋紗・絽・紗・羅の夏用羽織
紋紗、絽、紗、羅等の透け感のある夏用の羽織には、同じく夏の着物である、絽や紗などの着物と合わせて着用しましょう。
生地の透け感が暑い夏の季節に涼やかさを演出してくれます。また、透け感を利用して小紋柄の着物の上に羽織ると、着物の柄が見えて、おしゃれです。
レースの羽織
レースの羽織りもおしゃれで、色々な色柄の着物に合わせる事ができます。
定番の白以外にも、紫や黒、水色など様々なものがあります。着物地の柄を見せたい時などにもおすすめです。
ハッキリした色味の着物に、渋めの薄いベージュなどの羽織りをカーディガン感覚で羽織ると全体の印象が和らぎ、優しい印象に仕上がります。
また、可愛い柄の小紋には、白地のレースの羽織りをつけると乙女チックになります。好みに合わせて自由にコーディネートを楽しんでください。
ウールの羽織
ウールの羽織りは暖かく、保温性が高いので、防寒着兼、おしゃれ着として役立てましょう。
ウールの羽織は、おしゃれ着洗い専用の洗剤を使えば自宅でも洗濯することができ、メンテナンスがラクなことが最大のメリットです。撥水性も高いので、天候の悪い冬にも大活躍してくれます。
同じ素材のウールや木綿などと合わせるとまとまりやすいので、おすすめです。
ただ、ウールは毛織物なので、表面が少しザラ付いています。
単衣仕立てにしてしまうと、正絹の小紋柄等の着物と合わせる場合、生地同士がすれて正絹の着物地が傷んでしまうこともあるので、注意が必要です。
絹の肩すべりがあると着やすく、普段着としてより使いやすくなります。
意外と知らない?羽織のQ&A
羽織に関する疑問をQ&A方式でまとめてみました。
Q.羽織を着るとき、帯はどうするべき?
A.高い位置に大きく結ぶと背が膨れるので、お太鼓は低めの位置に小さくする
羽織を着る時には「お太鼓は低めの位置に小さく結ぶ」ことを心掛けましょう。
着物の上から羽織を着る場合、後ろ姿の帯の部分が膨らんでしまいます。この時、帯を高い位置で結んでしまうと、体の高い位置から全体的に膨らんだシルエットが出来てしまうので、太って見えてしまうからです。
お太鼓を低めの位置で小さく結ぶと、背中の部分があまり膨らまず、シルエットもすっきりします。
Q.羽織の正しい着方とは?衿はどうするのが正解?
A.羽織の衿は折り返すのが正解
意外と知らない人も多いかもしれませんが、羽織を着る時は、衿は折り返して着るのが正解です。正しい着方は以下の通りです。
- 羽織を羽織る
- 背中側の羽織の衿を外側に半分に折り返す
- 羽織り紐を結ぶ
背中側で衿を折り返すと、前の衿が自然にひっくり返った状態になります。羽織を着る時は、着物の衿を崩さないように優しく羽織りましょう。こうすることで、衿が浮いて着崩れてしまうのを防ぐ事ができます。
Q.羽織の紐はどうやって結ぶの?位置はどこが正解?
A,紐は帯締めと帯上部の中心に来るのがベスト。女性なら叶結び、こま結び、男性は丸紐と平組紐で異なる。難しい場合は片結びでも
羽織の紐の位置は、帯締めと帯の上線の中心に来るのがベストです。
女性の場合は叶結び(かのうむすび)、こま結びをするのが一般的で、右の紐の先が斜め下を向く結び方です。
また、男性は丸紐(細くて丸みのある羽織り紐)、平組紐(平べったい羽織り紐)と種類によって結び方が異なりますが、仕上がりはどちらも紐が中央で縦になります。
それぞれの結び方が難しく、分からない場合は片結びでも問題ありません。
Q.袷の羽織はいつからいつまで着られる?
A.一般的には11月初旬から4月初旬頃まで
袷(あわせ)の羽織は、袷の着物と同様に、一般的には11月初旬から4月の初旬頃までです。ただ、秋口の10月でも寒くなれば羽織を着ることもできますし、また5月でも肌寒ければ着用します。
「必ずこの期間内に着なければならない」というものではないので、気候に合わせて随時着用時期を選びましょう。
Q.単衣の羽織はいつからいつまで着られる?
A.4月初旬から10月下旬ころまで。夏には夏用の涼しいものを
単(ひとえ)の羽織のおおよその着用目安は、単の着物と同様の4月初旬から10月下旬頃までです
真夏などの暑い時期には、絽や紗等の夏用の羽織を着るととても涼し気です。
ただし、ウールの羽織の場合は、単でもウールと同様秋口から春先まで3シーズン着用できます。
Q.羽織の裏地ってどうするべき?
A.滑りのいい素材を選ぶのが第一条件。色は表地と濃淡にしたり工夫すると一層おしゃれ
羽織の裏地の事を「羽裏」と言いますが、滑りの良い素材を選ぶのが何よりの条件です。脱ぎ着がしやすく、着物地を傷めません。
表地が一越ちりめん、紋綸子、駒綸子、お召し、紬などのときは平綸子ちりめんやチェニー羽二重などが望ましいでしょう。
一方ポリやウール、木綿には同じくポリなどの合繊や交織物を使うのが一般的です。
この「羽裏」の色は好みに合わせて選びましょう。ピンク、ブルー、白が多いですが、着物好きの人は、脱いだ時にしか見えない羽裏にこだわって、柄ものなどを選び、隠れたおしゃれを楽しみます。
表地と濃淡をつけるのもおすすめです。
Q.羽織はいつ脱ぐもの?
A.羽織はカーディガンと同じ。ただしかしこまった訪問先では玄関前で脱ぐのがマナー
羽織は「和装コート」とは違い、「カーディガン」のようなものなので、基本的には室内で脱がなくても良いとされています。
しかし略礼装として羽織を着用している場合や、かしこまった訪問先では、コートを脱ぐのと同じように羽織を玄関前で脱いだ方がいいでしょう。風呂敷などに包むとより丁寧です。
「この場合は脱ぐべきかな?」と迷う場合には、脱いでおけば間違いがありません。
Q.出先で羽織を脱いだ時の畳み方は?
A袖たたみにする
出先で羽織を脱ぐ場合は、「袖たたみ」しましょう。
着用後保管する場合には、きものと同様にきちんとたたみますが、外出先では、広げて畳む場所もなく、例えあったとしても汚れが付いてしまうリスクもあるので、羽織を持ったまま簡単にできる袖たたみがベストです。
袖畳の方法はこちらの記事で紹介しています。
まとめ
羽織は、着物のコーディネートの幅を更に楽しく、そしておしゃれにしてくれる便利なアイテムです。
「これまで羽織を着る習慣がなかった」という人も、これを機会に積極的に取り入れてみましょう。