皆さんは「八掛(はっかけ)」という言葉をご存じですか?
着物初心者さんの中には、「聞いたことはあるけれど、実際に何のことなのか、詳しくは分からない」という人もいるのではないでしょうか。
実はこの「八掛」、着物全体のイメージを決める、とても重要な部分なのです。
そこで今回は「八掛」について、意味や役割、コーディネート例から「八掛」に関する疑問まで、詳しく説明します。
八掛(はっかけ)とは
そもそも「八掛」とは何を指す言葉なのでしょうか。
まずは八掛の意味や役割について解説していきます。
八掛は袷の着物の裏地のこと
「八掛(はっかけ)」は、着物の裏地のことで、「裾回し(すそまわし)」とも呼ばれます。
一般的に袷(あわせ)の着物の裏地は「胴裏」と「八掛」からできています。主に上半身の部分には「胴裏」が、そして袖口や腰から下の裾周りの部分に付けられているのが「八掛」です(図の青い部分)。
八掛は、歩く、座るなどの動きによって、着物の表地が傷まないように保護したり、裾捌きを良くする役割があります。
カジュアルシーンで八掛にこだわるとおしゃれ上級者に!
どんな帯や帯締めを合わせるか、着物を着る上では皆さん当然のようにコーディネートを考えますよね。
そこから着姿をさらに洗練させて、個性やこだわりを演出したくなったら、「八掛」のデザインにも気を配ってみましょう。
昔から着物のおしゃれ上級者は、カジュアルシーンで着る「小紋」や「紬」に、色々な八掛を合わせて「隠れたおしゃれ」を楽しんできました。
ちょっとした所作の時に袖口や裾から八掛が覗くのは、なんとも風情がありますよね。
さらによく見ると八掛は完全は裏地ではなく、表地から2mm程飛び出しているのが分かります。
これはフキといって、表地が傷むのを防ぐ役割がありますが、色や幅によって着物のバランスがガラッと変わるポイントなのです。
八掛を変えれば、着物全体の雰囲気をフォーマルな印象にも個性的な印象にも変えることができます。
他にもちょっと若すぎかなと感じる着物も年齢に合わせた色合わせの八掛にして使い続けたりということも可能です。
八掛の色の選び方|色合わせ方法とコーディネート見本
それでは具体的にどんな八掛を選べばいいのでしょうか。
基本的には何を選んでも問題ありませんが、着物をフォーマル寄りに着るか、普段着のようにカジュアルめに使うかによっておすすめの色味は変わります。
イメージ通りの八掛を選ぶために、まずは色の特性について簡単に説明します。
- 同色:全く同じ色
- 同系色:同じ色相の明度・彩度の異なる色
- 類似色:「色相環(色を環状に配置した図)」で隣り合う色
- 補色:「色相環(色を環状に配置した図)」で向かい合う色
- 反対色:補色の類似色
フォーマルな印象にしたければ同系色や類似色を、カジュアルで個性的な印象をイメージしているなら補色や反対色を用いるのが一般的です。
また明度差、彩度差も重要で、全く色の違う八掛でもこの明度差と彩度差が近しい色(=トーンが同じ色)であれば、きれいに調和します。
ただし、着物の柄や表地の色にももちろん左右されるため、さらに詳しく見ていきましょう。
上品でフォーマルな雰囲気がいい場合は同系色か類似色
着物全体のイメージを「上品でフォーマルな雰囲気」に仕上げたい場合には、「同系色」や「類似色」の八掛もしくは彩度の低い八掛を選びましょう。
【フォーマル度★★★】同色の八掛は共八掛同様フォーマル向きで裾の印象が柔らかくなる
訪問着や留袖等のフォーマルな着物の八掛のほとんどは「共八掛(表地と同じ生地の八掛)」です。
これにならって、おしゃれ着の八掛に、表地と同じ色味を使うとフォーマルなイメージに仕上がります。
個性的ではない分、汎用性が高いので、着ていく場所を選びません。
また裾を柔らかく見せる効果もあり、はんなりとした上品さも生まれるでしょう。
【フォーマル度★★】同系色で明度にのみ差をつける
次にフォーマル度が高いのは、同色で明度にのみ差をつける「同系色」の組み合わせです。
紫の着物に、明度の高いパステル調の紫を持ってくると、柔らかで控え目な上品なイメージになりますし、反対に明度の低い八掛を持ってくると、落ち着いた印象になります。
明度差が少ないほどフォーマル寄りになるため、バランスを見て調整しましょう。
ただし表地が薄いお色の場合、暗めの八掛にすると透けてしまうこともあるので要注意。
【フォーマル度★★】類似色×彩度低めのトーンは大人な印象
大人な印象に仕上げたい場合には、類似色で彩度の低い物を選びましょう。
寒色の着物には渋めの紫やモスグリーン、暖色の着物にはくすんだ黄や茶、臙脂などが相性がいいですね。
あまり重たくなりすぎないようにしたい場合は、彩度は低いまま明度を上げたものを選ぶと若い印象になり過ぎずバランスが取れます。
【フォーマル度★】反対色でも彩度低めトーンならまとまりも出やすくておすすめ
反対色や補色でも、彩度の低いものを合わせると、落ち着いてシックなイメージになります。
寒色にはトーンを抑えた渋みのある黄色や茶を合わせると、反対色でもまとまりが出ることが分かります。
表地が薄めのお色であれば、同程度の明度をもつ反対色の方が主張が激しくなく馴染むでしょう。
たとえばペールピンクのお着物に同じペールトーンのライトグリーンを合わせれば、春らしい装いとなります。
個性的なコーディネートを楽しみたい場合は反対色(補色)や柄八掛
着物全体の印象を個性的に見せたい場合には、反対色(補色)や柄付きの八掛がおすすめです。
【個性度★★★】反対色×彩度高めトーンは元気で華やかな印象
着物地のベースカラーの補色や反対色の八掛を組み合わせると、個性的な印象となります。
例えば、紫や青の反対色は黄色ですが、黄色の中でも彩度をより高めた「鮮やかな黄色」を八掛に持ってきた着物は、元気で華やかに見えるでしょう。
彩度の高い色は若々しい印象を与えるため、「年齢に合わない」と感じ、手を出しにくいと感じてしまう人も多いですが、表地が渋めのお色であれば綺麗なアクセントにもなりますし、肌色も映えるので普段着としてチャレンジしてみるのもおすすめです。
【個性度★★★】柄八掛は着物地の色や柄、使う予定の帯から一色取るとバランス◎
無地ではなく、柄付きの八掛(柄八掛)を使うと個性的な印象になります。柄八掛には、全体に柄のある「小紋柄」と、ワンポイントに模様があるものがあります。
柄八掛を選ぶ場合は、表地の色や柄、帯の色等が使われているものを合わせると、全体のバランスが取れてまとまりやすくなります。
また、無地の大島紬などに柄八掛を用いると、粋なイメージになるのでおすすめです。
【個性度★】類似色×彩度高めトーンは若くカジュアル寄りな印象
類似色でも、彩度が高めなものを合わせると、カジュアルで個性的なイメージが強くなります。
表地が薄い色味の場合に、個性とまとまりのバランスが良く仕上がります。
着物の柄に使われている色なら基本的に合わないことはない
八掛の色選びが分からず、迷ってしまうという場合には、着物の柄に使われている色を合わせると失敗がありません。
帯揚げや、帯締めの色を着物に使われている柄の色にすると、しっくりとまとまるように、八掛も着物地に使われている色を選んで組み合わせると、例外なくまとまります。
着物地に使われている色味を何色か合わせて、好みに応じて選びましょう。
手持ちの帯と相談するのも忘れずに。
色の薄い着物は八掛が透けることも。ぼかしや薄い色の八掛を選ぼう
着物地が、白やクリームなどの薄い色の場合は、ぼかしの八掛や薄い色の八掛がおすすめ。
薄い色の着物に色の濃い八掛を合わせてしまうと、着物の表面から八掛の色が浮き上がってしまう場合があるからです。
また、前述したように、着物の裏地は「胴裏」と「八掛」からなっていて、それぞれ違う布を使います。胴裏は白の場合が多いのですが、八掛の部分だけ表地に響いてしまうと不自然な印象になってしまいます。
色の薄い着物の場合には、生地の端から中心に向かって白くなっていくぼかしの八掛や、薄い色の八掛を合わせましょう。
ただし薄いお色でも表地に響かないようであれば思い切って色を乗せても素敵ですよ。
八掛の疑問点Q&A
以下、八掛に関するよくある疑問点をQ&A方式でまとめてみました。
Q.年齢によって八掛の色を変えるべき?赤はやはり若い?
A. 八掛の色に年齢制限はなし。赤は肌の色も映えておすすめのお色。気になる場合はトーンを下げてみましょう
ズバリ、八掛の色に年齢制限はありません。好みに合わせて自由にコーディネートを楽しみましょう。
洋服などでは少し若いかな?と思われるような「赤色」も八掛ならそれほど違和感はありません。むしろ、肌の色が映えるのでおすすめのお色です。
「それでもやっぱり気になる」という場合には、トーンを下げた色味を合わせて、全体の雰囲気を落ち着かせましょう。
暖色であれば少し茶寄りに、寒色であれば紺や紫のくすみカラーがおすすめです。
Q.大島紬に合う、おすすめの八掛の色は?
A.藍や泥には辛子や朱、臙脂が定番。白大島の場合はぼかしのものを。
大島紬と言えば、藍色や泥染めの黒が代表的です。
この様な着物地には、辛子や朱色、また臙脂(えんじ)等の落ち着いた色味の八掛が良く似合います。
また、白大島の場合は、表地に八掛の色が響かないように、ぼかしのものや、色の薄い物を選びましょう。
Q.小紋に合う、おすすめの八掛の色は?
A.一概に「何色」とは言えませんが、着物のベースや柄の色を元に選びましょう。
着物のベースや柄の色、それぞれの好みによって違うので一概に「小紋に合うのは何色」とは言うことはできません。
ただ、先程も解説したように、小紋のベースの色や、柄に使われている色を合わせると、全体的にまとまりのある印象に仕上がるのでおすすめです。
Q.色無地、訪問着の八掛はどうなっている?
A.ほとんどの場合が、表地と同じ生地を使った「共八掛」です。
色無地、や訪問着などのフォーマルな着物の八掛は、ほとんどが「共八掛(着物と同じ生地を八掛として使う)」です。
そのため、色無地や訪問着を仕立てる場合は、八掛を選ぶ必要がありません。
ただし、仕立て直しの際に別色の八掛を付け直すこともあります。
Q.八掛が擦り切れたり汚れてしまった場合、どうすればいい?
A.着用頻度が高く、今後も長く着る予定なら八掛の取り換えを行いましょう。
八掛が擦り切れたり汚れてしまった場合は、取り替えを行いましょう。
八掛には、「見えない所のおしゃれを楽しむ」という目的の他に、「大切な着物を保護する」役割があります。八掛はいわゆる「消耗品」なのです。
特に、裾周りの部分の八掛は動いたり、歩いたりする事で生地に負担がかかるので、どうしても傷みやすくなったり、汚れやすくなってしまいます。
着用頻度が高く、今後も長く着る予定の着物の場合は、思い切って八掛を取り替えましょう。これまでと違う色の八掛を合わせれば、着物の印象もガラっと変わります。
Q.八掛の交換には料金がどれくらいかかる?
A.八掛の交換費用はおおよそ10,000~20,000円程です。
八掛交換の料金は、10,000~20,000円程が相場です。
八掛の値段や作業料などは、生地の質やお店によってそれぞれ異なるので、依頼する前に何件かで見積もりを行い安くて仕事が丁寧な所にお願いしましょう。
Q.八掛の交換は自分でもできる?
A.和裁の知識が無ければ自分で交換は出来ません。専門家に任せましょう。
八掛の交換は自己流では決してできません。
八掛は、単に「八掛の布を取り除いて、新しく縫い直す」という簡単なものではないからです。
和裁の知識や経験の無い素人が交換しようとすると、八掛どころか、大切な表地まで傷めてしまう事にもなりかねません。
多少費用はかかりますが、大切な着物のためにも、八掛交換は専門家に任せるのが一番です。
まとめ
八掛は、普段着物の表面からはあまり見えませんが、着物の印象を大きく左右します。
カジュアルな着物には大胆な色の八掛を合わせてみるのもおすすめです。
コーディネート例を参考にしながら「隠れたおしゃれ」を楽しんで、着物上級者を目指しましょう。