「新しい着物を着ようと思ったらしつけ糸がついているけれど、取った方がいいのかしら?」そんな風に迷った事はありませんか?
単に「しつけ糸」と言っても、着物の場合いろいろな種類の「しつけ糸」があり、それにより「取るべきもの」「取ってはいけないもの」があります。
そこで、今回はの記事では、「着物のしつけ糸」の扱い方に焦点を当てて詳しくみていきます。
着物には「取るしつけ糸」と「取らないしつけ糸」がある
着物の「しつけ」にはいくつか種類かあり、それにより「取るべきもの」「取ってはいけないもの」を区別します。それぞれのしつけの種類とその役割をみていきましょう。
そもそも「しつけ糸」とは?しつけ糸の意味と役割
「しつけ糸」は、着物を仕立て易くするために縫い目を仮にとめておくためのもので、本縫いに使う「仕立て糸」よりも細い糸が使われます。
このしつけ糸には「新調した着物の、型崩れを防ぐ」という役割もあります。
着物についているしつけ糸は3種類
着物を新調した時についているしつけ糸には3種類あります。
その中で「取っていいしつけ」と、「取ってはいけないしつけ」があります。
【取るしつけ】着る前に取る「大小しつけ」
3種類のしつけの中で唯一忘れずに取らなければいけないのがこの「大小しつけ」です。
着物を新しくあつらえた場合、お客様の手元に届くまでに、型崩れを防ぐために施されているしつけです。
「大小しつけ」は主に裾や袖、衿などに施されていて、大きな縫い目と、小さな縫い目が交互に連続している事から、この「大小しつけ」という名前が付きました。
着物を着る前には取ってしまうものなので、すぐに解けるように大雑把に縫われています。この「大小しつけ」を付けたまま着物を着ていると「着物の事を良く知らない人」と思われてしまうので、忘れずに必ず取りましょう。
衿/袖(左右)/衿下(左右)/裾
【取らないしつけ】付けたまま着る「飾りしつけ(ぐししつけ/ぐしびつけ)」
飾りしつけとは、細かい縫い目で等間隔に並んでいるしつけの事で「ぐししつけ/ぐしびつけ」とも呼ばれるしつけです。
このしつけは「取ってはいけないしつけ」です。
この飾りしつけは、主に格の高い、黒染袖や色留袖、訪問着などの格の高い物に施されていて、掛け衿の部分、袖口、衿下、裾などに、白い糸を使って縫われています。
飾りしつけのように、縫い目を細かく美しく仕上げるには、熟練の技が必要で、職人さんの腕の見せ所です。名前に「飾り」の文字がありますが、着物の縫い目を抑える役割、また織り目や縫い目を強くするために縫われているので取ってはいけません。
ただし、着物通の人の中には、「しつけは全て取るのが正解」「本来しつけは取るべきものだから、飾りしつけも取る」という人もいますが、知っていてあえて取っているのです。こ「知らないで取っている」という事とは大違いです。
衿/袖口(左右)/衿下(左右)/裾
【取らなくてもいいしつけ】見えないところにある「裏側のしつけ」
新調した着物の衿の裏側を見てみると、大小しつけが施されています。
これは、着物を着た時に表から見える所ではない事、そして取ってしまうと着物地がブカブカしてしまうので、着物の裏面の大小しつけは取らなくても良いでしょう。
取るしつけと取らないしつけの見分け方
「取るしつけ」と「取らないしつけ」の見分け方は、「しつけ糸の目が粗いか細かいか」、「表から見えるしつけ糸か」この2点で判断します。
- しつけ糸の目が粗いものは取る、細かいものは取らない
- 表から見えない裏側のしつけは、粗い目でも取らない
この事さえ頭に入れておけば間違う事はありません。
着物のしつけ糸の取り方
着物の大小しつけは、簡単に取りやすいように大雑把に縫われています。だからといって、乱暴に取ってしまうと着物地を傷めたり、傷ができたり、ほつれたりしてしまいます。
しつけ糸を取る前に、まずは手を清潔にします。そして、着物地を引っかけてしまわないように爪が割れていないかもチェックしましょう。
大小しつけがあるのは、衿、左の衿下、右の衿下、裾、左袖、右袖の計6箇所で、どの部分も1本のしつけ糸で縫われています(図青線部分)。
以下の手順を参考に、着物地を傷めないように注意しながら各部分のしつけ糸を丁寧に取っていきましょう。
- 1)しつけ糸の端を探す(縫い終わり、または縫い始めの玉止めの部分)
- 2)糸の端を持ち少し引き出す(糸を切る時に間違って着物地を傷つけない為)
- 3)糸切りバサミを使って、着物地と離れた所で糸を切る
- 4)無理に引っ張らず、丁寧にしつけ糸を解く(長い場合は途中で切り、解きやすくします)
この時、一番注意しなければいけないのが「着物地を傷めないように作業する事」です。
「せっかく新調した着物に袖を通す前に傷んでしまった」という事の無いように、念には念を入れてしつけ糸を取りましょう。
イメージしにくい場合は動画も参考になります。
しつけ糸に関するQ&A
しつけ糸に関するよくある質問をQ&A方式でまとめてみます。
Q.襦袢のしつけ糸は取る?取らない?
A.薄い色の襦袢なら取らなくても取ってもOK(取る人が多い)。濃い色なら取る
襦袢のしつけは型崩れを防ぐために施されていて、大小しつけよりも、多少細かい目で縫ってある事がほとんどです。
着物を着た時に見えない所にある上、型崩れを防いでくれるので、取らないという人もいれば、引っ掛けるのが怖いので取ってしまうという人もいます。
最近では呉服屋さんでも取ってくださいと言われ、実際にすぐ取る人の方が多いようです。
襦袢色が濃く、しつけ糸が着物の袖口から見えて気になると言う場合には、取ってしまってもいいでしょう。
襦袢が薄い色の場合にはそのままにして、糸が弱ってきたら取ってしまうのがおすすめ。ただしその場合ほつれてだらしなくならないように注意が必要です。
ただし襦袢の袖口にある房のような糸は、袖を落ち着かせるためについてるものなので取らないでそのままにしておきましょう。
Q.飾りしつけを取ってしまったらどうする?
A.仕立て屋さんでつけ直してもらえます。ただし高価
前述した通り、飾りしつけは取ってはいけないしつけです。
かなり細かい目で縫ってあるため、取るのに相当な手間と時間がかかるはずです。それでも「しつけ糸は仮にとめてあるものだから取らなければ」と思い込み、取ってしまう事もあるかもしれません。
しかし、もし万が一間違って取ってしまった場合にも、仕立屋さんでつけ直してもらうことができるので安心してください。
取るつもりはなかったのにひっかけてほつれてしまった場合も同様に直してもらえます。
ですが、飾りしつけはかなり繊細な作業なので、その分技術料も高価です。
Q.新しい着物はしつけ糸をつけたまま着るって本当?/しつけ糸は男性に取ってもらう方がいい?
A.芸者さんやホステスさんなどは、お客さんにもらった着物に初めて袖を通すときに、しつけ糸をつけたまま着て、しつけ糸を取ってもらう風習があります
京の花街では、新しい着物の左袖のしつけ糸をつけたままお座敷に出て、そこでお客様に取ってもらいます。「しつけ糸を取った男性は、その着物を買ってあげる」という風習が今も残っているようです。
ホステスさんも同様に、着物を買ってくれたお客様にしつけ糸を取ってもらうという儀式のようなものが存在するようです。
しかし、これらは夜の街独自の風習や、儀式なので、それ以外の場合は「誰がしつけ糸をとるか」はあまり関係ありません。
Q.しつけ糸をつけたままの着物は縁起が悪いの?
A.死装束を髣髴とさせるため、縁起が悪いと言われることもあります
昔は、人が亡くなると周りの家族や親戚の女性たちが大急ぎで白装束を縫いました。短時間で装束を縫い上げるため、縫い目も粗く大雑把でした。
この粗い縫い目がしつけ糸の縫い目に似ていることから「しつけ糸を取らないと縁起が悪い」と言われるようになったようです。
しかし、これは迷信に近いものなので「しつけ糸の取り忘れを防止するための昔からの言い伝え」程度に頭の中に入れておきましょう。
まとめ
着物のしつけにはいくつか種類があり、その役割から「取るべきもの」、「取ってはいけないもの」があることがわかったのではないかと思います。
特に「大小しつけ」は残っていると、どこかに引っかけたりして、着物地を傷めることになってしまう場合もあるので取り忘れのないように注意しましょう。